魔法少女は始まらない!



フレイは留まる事無く、旅を続けていた。
留まるには影響が多過ぎるからだ。
長くこの世界にあるモノ__精霊・神霊・幻獣など人以外との交流だけは盛んだ。
ふと、フレイは立ち止まった。

「……いかなければ」

急に掛けだし、向かう先はとある集落の外れ。
いかにも弱々しい小動物の形を取ったソレを拾い上げた。
ソレは猫とウサギの間にあるような生き物だった。
猫のような三角耳にウサギのような白い体毛と紅い目。
そう断言するにはそれは奇妙過ぎた。
背中に紅い楕円輪があり、耳元から伸びた毛の先に金色の環が付いている。
赤々とした目は一度も瞬きをしていないのが、その奇妙さに拍車を掛けた。

「オマエは、何だ」

ソレは普通の生き物ではない。
しかし神秘に相当する魔力の欠片も感じ取れない。
明らかに自身よりも巨大なフレイに掴まれた所で、ソレは一切の感情の揺らぎが無かった。
死すらも恐れていないのだろう。

《酷いじゃないか》
「オマエは、何だ」
《僕? 僕はキュゥべえだよ!》
「取り繕っても無駄だ。オマエの様な疑似生命体はこの地球には存在しない。なぜ此処にいる真実を話せ

言葉に神力を乗せて、フレイは詰問する。
神力を使うことで、単なる命令を抗う事の出来ない言霊へと変容させたのだ。
キュゥべえも本人の意志とは裏腹に口を開いた。

《僕達はここ地球で宇宙存続に必要なエネルギー蒐集候補地として視察に来ている》
何が目的だ
《宇宙が存続するには膨大なエネルギーが必要になる。それこそ熱力学で得られる程度では足りないくらいに……。僕達は宇宙の寿命を伸ばすことが使命だ。その為に、感情の相転移が起き易い生命体を探している》
「つまりは、感情が揺れ動き易い生命体__人間に目をつけたのか」
《君だって滅びたくないのだろう? だから____》
去ね。全てのモノは等しくいつかは終焉を迎えるものだ。それが早いか遅いかなんて大して問題ではない。監獄ごと朽ち果てるよりも消滅はなんと甘美なことか」

そうフレイは婉然と笑う。
キュゥべえはこの理不尽なまでの思考に追いつかず、一寸間が空いた。

《理解できないな。君たちは子孫を残す事を目的としている生命体だろう? なんでそうまで、終焉に肯定的なんだ》
「それは、オマエが知る必要のないこと。ただ____」

そっと手がキュゥべえの頭を掴んだ。
その瞬間キュゥべえの、いやインキュベーターの端末個体であるソレに、ノイズが走った。

(か、干渉を受けているのか?)
「塒を荒らされるのは不愉快だ。自給自足できるようにしてやった。わざわざ此処まで赴く必要が無い__二度と赴けないだろうが」

ホワイトアウトしていく意識の中で、インキュベーターはその音を拾ってから、動きを止めた。

宇宙のどこかにある惑星__インキュベーターの本拠地と言って良いだろう。
そこにある特殊なインキュベーター個体群が生まれることとなる。
宇宙より発される希望と絶望を受信するだけの端末は存在期間は短くとも、ただいなる感情エネルギーを供給するようになった。
簡単に言ってしまえば、感情のあるインキュベーターが生まれたのだ。
またそれを利用する技術も発達し、彼らの予測以上のエネルギーを生み出す事となる。
これにより、インキュベーターは他宇宙生命体との交流が不要となったのだ。
つまりは、宇宙は安泰である。



 *



____西暦20xx年、日本国某県見滝原市。
一人の少女が見滝原中学校に転校して来た。
少女の名は暁美ほむら。
心臓が悪く、見滝原県立病院のとある医師に診て貰うためだ。
病気もあり人見知りで転校も多く休みがちな彼女であるが、幸いにして見滝原中学で、ほむらは友人を得た。
友人の名前は鹿目まどか。
ピンク色の髪を二つにまとめた、ほむらの友達。
今日は一緒に帰り道、駅近くの最近噂になっているカフェに寄る予定だ。
暮れて行く夕日を背に、二人並んでる__正確に言うならばまどかの方がやや先を歩いてカフェにて頼むメニューを悩んでいる__時だった。
ふと、夕日に染まったまどかの背中に、ほむらは泣きたくなった。
けして哀しいのではない。
極々このありふれた中に、すごい奇跡であるように感じたのだ。
知らず立ち止まっていたほむらに、気付いたまどかが振り返る。

「ほむらちゃん? どうしたの?」
「なんでもないの」
「ほら、行こうよ!」
「うん……うん!」

ほむらは心に掠めたものを置いて、まどかに追いつくべく歩みを進めた。
二人は笑い合い、日常を謳歌するのである。
希望を願い魔法少女に成る事も、絶望に呑まれ魔女に成り果てる事も、ましてや理として彷徨う事も無い。
この世界にあったもしも。
これにて、閉幕。



  お わ り



掲 載 140930
再掲載 141230



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