一周年記念 その十八
連絡が暫く無いと
貴方が倒れてないか
心配になる
C
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猫
も
心
配
す
れ
ば
死
ぬ
そう、あれは初めて出会ってから二年程経った頃だ。
佳主馬はキングカズマの新機契約の為に東京に訪れていた。
思っていたよりも随分と時間が掛かり、後一時間近く経てば空も暮れる位だ。
(もっと早く終われば健二さんに会いに行くのに)
恋するが故に取引先に子供のように心の中で不平を洩らした。
今からいきなり連絡をして泊まりたいと頼むのは気が退けるし、健二にも用事がある可能性だってあるのだ。
ふと、佳主馬の脳裏に使えそう、げふんげふん佳主馬の友人の一人・佐久間が浮かんだ。
佐久間に対しても余り遠慮しない佳主馬は直ぐに電話を掛けた。
暫し聞き慣れた電子音の後、佐久間が電話に出た。
『おー、キング。久しぶりだな』
「久しぶり」
『健二のことかー?』
「話が早くて助かるよ」
佐久間曰く、健二は今日の昼締め切りのレポートで大学の研究室に泊まり込んでいて、研究室で撃沈しているとのこと。
佐久間が地図情報も一緒に添付してくれたのだ、一人でも大丈夫そうだ。
「ん、ありがとう」
『ハハハ、健二をよろしくな〜』
通話を切りメトロに乗り込んだ。
健二の通っている大学に二十分程でつき、目的の研究室まで目前となった。
(健二さんに会うの久しぶりだな………)
一年前は健二は大学受験で来なかったし、今年は佳主馬が高校受験だ。
OZで会うのとリアルで会うのは大分違う。
健二の髪の柔らかさも、淡い石鹸の匂いも、画面越しじゃ感じられないものの一つだ。
直接会いたいと思うのは当然の事だろう。
佳主馬は研究室に近付く毎に胸を高鳴らせる。
浮き足立った気分のまま、研究室の戸をノックした。
しかしいくら待っても出て来ない。
室内の電灯は煌々と輝いているのだから、誰かはいると思われる。
(一先ず、入ってみるか………)
佳主馬はそっとドアを開けた。
部屋の壁には本棚が取り付けられ、それでも入りきらなかった蔵書が山を作っている。
床はあまり掃除をしてないのか埃っぽい。
その床の上に件の人物___小磯健二がうつ伏せに倒れていたのだ。
「けっ、健二さん!!?」
佳主馬はすっとんきょうな声を上げ、健二の傍らに座り、彼を揺り起こす。
ゆらゆらと佳主馬の動きに合わせて、健二の頭が揺れる。
うっすらと目を開けた健二はぼんやりとした面持ちで宙を見た。
そしてゆっくりとその唇は開かれた。
「おなかすいた………………」
「健二さん………………」
佳主馬はがっくりと肩を落とし、脱力する。
一走りコンビニまで食料調達に、気力を振り絞った。
「佳主馬君、ありがとう」
「…………大丈夫そうになって良かった」
鮭お握りをほうばりながら、健二はふにゃりと笑った。
佳主馬は内心胸の高鳴りを自覚しつつも、ポーカーフェイスは崩れない。
どうも行き倒れの原因は過度の集中による、食事摂取の怠慢から来る栄養失調気味だ。
これは笑えない。
現代の日本社会で栄養失調は駄目すぎるだろ。
「健二さん、これから一日一回は俺に連絡して」
「え?」
「健二さんが倒れてるんじゃないかって、気が気じゃなくなる」
いつもは違うんだと、健二は主張するも、説得力皆無に等しい。
佳主馬は健二の顔を真剣に覗き込んだ。
「健二さん、あんまり無茶しないでよね」
「………!心配してくれて、ありがとう」
本日一番のやわらかい健二の微笑みに、佳主馬は自分の頬に熱が集まるのを自覚する。
(あぁ、本当にこの人は…………!)
適わないと、OZの無敵の王が心の中で白旗を降った。
離れていても、近くにいても、健二が健二で有る限り尽きぬ悩みの一つに違いない。
それでも、少しでも傍を望むのはその恋情故か。
およそこの六ヶ月後に彼らは付き合い出すのだが、今は誰も知らない話。
下書き 110908
掲 載 110909
再掲載 111218
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