前日B

出会いから気が付けば随分と月日が過ぎた。

あの情けなく、ダメダメだった教え子は、今や立派な一マフィアを率いるボスとなった。

その後ろ姿に誇りさを感じると同時に、なぜかしこりが残る。

どこか理不尽にむしゃくしゃする。

肉体の年齢に己の心が引き摺られているのだろうか。

取り留めもなく、愛飲しているエスプレッソを飲み込んだ。





10日間のキセキ 前日 ただ、祈るのは





今のところ表面化した大きな問題がマフィア界を脅かしてはいない、平和と一般的にはいうであろう状態だ。
しかしこういう時ほど、水面下で面倒なことが起こり始めたりするものだ。
赤ん坊姿から再び成長し、現在十代前半か後半に入るか否かぐらいの容貌に変化を遂げたリボーンは、未だに変わらない___進歩を感じさせない教え子達の姿を見遣った。


(いつまでも進歩がねーな、ダメツナ)


今回の議題___アメリカのマフィアの新規参入とそれに伴うドラッグと人身売買と人体実験についての対策だ。
なかなか敵の参謀が頭の切れるやつらしく、歴然とした証拠が上がっていないのも手痛い。
マフィア唾棄している骸が不快そうに顔を歪め、殲滅作業を嬉々としてやりたがり、元祖・殲滅屋の雲雀も随分と乗り気のようだ。
二人でやればいいのだが、出会った当初から相容れない彼らは、作業の取り分を争っているそうだ。
ボンゴレファミリー十代目こと沢田綱吉は、胃痛持ちの中間管理職のごとく二人の仲をがんばって取り持っている。


(部下の舵取りも大切な仕事だぞ)


以前と比べれば、比較にならない程上手くなった。
まだまだ甘い所が綱吉に有っても、獄寺をはじめとした守護者の面々や、九代目のような経験豊富な助言者がいれば彼らはやっていけるに違いない。
ふと、リボーンはそのような評価を下した。


(別にもう、いなくてもいいんじゃないか?)


雛鳥はいずれ成鳥となり、自信を守り慈しんでくれた巣から旅立つ。
親鳥は別れ、再び自らのために生きるのだ。
それが自然の節理であり、人間社会においても当然あてはまる。
ここの所、連日と言っても過言ではないほど、この言葉が脳裏を過る。
似たような過程を経て結論にたどりつく。
これではまるで___。


(俺が離れられていないのか………?)


この最強のヒットマンが親離れできない?
むしろ、思い入れが強い?
屈辱的な事実に気付くと、苛立ちが襲う。
フリーであることを信条とし、束縛を厭う漆黒の死神が、なんとも生温くなったことか!


「どうかした、リボーン?」
「……とっとと済ませやがれ、ダメツナ。
 それとも久しぶりに、死ぬ気でやるか?」


チャキリと懐から、М1911を取り出しながら、教え子を睨みつけた。
さすがに、出会った頃のようにパンツ一丁になるのは嫌だったらしく、きりきりと動く。
これで、まとまるに違いない。


(ここんとこ、仕事をしてないのが悪かったんだな)


あの嫌な気分を切り替えるべく、久しくやっていなかった、フリーの活動を再開しようとリボーンは心に決めた。
闇に溶け込み、確実に仕事をこなせば、こんな気持ちは忘れらる。
現実逃避と解っていながらも、気付かないふりをした。













「へまをしたか………」


綱吉から離れようと思って、再びやり始めたのに、滑稽過ぎた。
脇腹から燃えるような熱を感じながらも、闇医者のもとに向かう。
仕事が完遂できたのに、死にそうなんて、バカみたいだ。
壁に寄りかかりながら、上がった呼吸を整えた。
歩くのが億劫になりつつある。


「やっぱり、碌な死に方はしないもんだ」


裏路地に座り込んだ。
もう、リボーンは歩けそうになかった。
重くなる、目蓋。
最期に思い出したのは___。





110926
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