例えば、もっと早く出逢ってたら
例えば、直接出逢ってたら
例えば、あの日がなければ
未来は変わっただろうか?
あの日を俺には忘れる事などムリなんだ。
あの夏の日の戦争をどうして忘れる事が出来るだろう?
決定的な敗北。
大切な曾祖母の死。
そして、あの人との出会い。
あの人のしなやかな心に俺はどれだけ救われたのだろう。
『まだ、負けてない……!』
その強い視線の先に俺は行きたかった。
あの人のように強くなりたかった
あの人を守れる様な強さが欲しかった。
そして俺は___
君に恋した
遠かった
他の人を思えば十分近いのかもしれない
でも、俺の欲しかった位置には
遠かった
弔いの合戦を終えて、何とか勝利を収めた。
曾祖母の誕生日会にして葬式は実に賑やかなものだった。
でも、これで良かったのだ。
ふと、顔を上げるとあの人と従姉を囃し立てる親族。
近くなる互いの顔。
やめてくれ、と言えたら楽になっただろうか。
唇は音を紡ぐ事もなくなりゆきを見守る。
頬に触れた唇。
近くなったと思ったのに。
遠い。
届かない。
君には大切な人がいた
どうして、その言葉が紡げただろうか
子供でもするりと言える一言を
俺は忘れた
思えばこれが初恋だった。
誰が言ったんだろうか。
『初恋は実らない』って。
そう、恋を自覚した瞬間に、それは届かない事に気付いてしまった。
あの人の優しい瞳は従姉に最も強く注がれていた。
何よりも、俺は子供だった。
今でこそ、たかが四つと言えるんだ。
子供で、男で。
あの人に守ってもらう様な立場で。
どうして言えるだろう。
あの人との細い縁が切れてしまう気がしたから。
伝えはしなかった
距離が近くなるほど
嬉しくて
距離が近くなるほど
苦しかった
あの日からあの人との繋がりができた。
ちょっとした事をメールしたり、チャットしたり、OZで会ったり。
少しづつ、“従姉の親戚”から“池沢佳主馬”となった気がした。
何気ない会話。
たわいも無い戯れ言。
言葉を重ねてあの人を知るうちに更に想いはつもった。
どんだけ、気のせいにしたかっただろう。
幸せなのに、足りない。
足りなくて、苦しい。
苦しくて、愛おしい。
俺はいつまであの人の隣にいられるんだろう?
ただ、幼い俺は終わりを恐れた。
ひそかに想い苦しんだ
自分の心に嘘をつく俺
俺の心を知らないあの人
ズレタのは気持ちだろうか?
ズレタのは世界だろうか?
月日は巡ると気がつくとあの日から三年の月日が流れていた。
それは何気ない会話だった。
いつものようにチャットをしていた。
『佳主馬君、彼女つくらないの?』
カッコいいのに勿体ないとあの人は言った。
わかっている。
分かっている。
……理解っているつもりだった。
あの人にとって俺はただの友人にしかすぎないんだって。
どうしてこんなにも苦しんだろう……?
雫がキーボードに落ちた。
傷を負った
なぜ
恐れてるものって
来るんだろう
どうせ逃げる事が叶わないからだろうか?
あの人の友人であるとハッキリと示された日。
あの日からあの人と関わる事が怖くなった。
傷を恐れる獣が再び傷を負う事を厭う様に。
チャットの回数は減り、電話の時間はなくなり、メールの着信が消えた。
日常生活からあの人の欠片が消えて行く。
自分でしといて、苦しくなる。
それでも、何処かに安堵が潜んでいた。
でもその安堵は絶望に似ていた。
絶望した
優しいあの人に言わせてしまった
この時程、タイムマシンが欲しかった
この言葉を言わせる前に、止めるために
細くなった縁。
自業自得なのは分かっている。
そう言っていたのはCMだったか。
会えない時間が恋を育むなんて嘘だと思っていた。
真実なんか糞喰らえ!
離れれば離れる程、俺はあの人の残滓を面影を探す。
離れても、共にいても苦しい。
ピピピピピピピピピ
電話が鳴る。
あぁ、嫌な予感がする。
悪い予感ほどよく当たる。
「ひさしぶり、佳主馬くん」
あの人だった。
「ごめんね。
少しでいいから聞いてくれる?」
柔らかな声が、寂しいそうな色を帯びていた。
貴方の声で、言葉で、心で、貴方は僕にさよならを告げた。
死にたくなった
呆然として
どうして良いか分からなくて
それでも
本能のままに貴方を求めた
別れの言葉が俺の思考を鈍くした。
虚脱状態のまま一週間が矢のごとく過ぎ去り、このままじゃダメだとやっと気付いた。
何とか会うために、あの人に電話をしても、その電話番号は無くなっていた。
久しく連絡の取っていなかったあの人の友人にコンタクトは取れても、曖昧なものバばかりだった。
あの人は、俺を嫌いになったのかもしれない。
もう、俺の声を聞きたくないくらいに。
不幸は重なった
もう
迷わない
持てる全ての力を使って、俺はあの人を探した。
あの人の好きな物。
あの人の大切に思っているモノ。
あの人のアバター(化身)。
傷つく事を恐れて、見ないフリをして。
それでも、あの人の欠片を忘れるなんて出来る訳がないんだ。
もう、俺は逃げない。
ただ一言、貴方に言いたいだけ。
「愛している」
それでも君を愛した
愛している
甘さも
苦さも
喜びも
悲しみも
この胸の苦しさも全ては貴方に繋がるのだから
その全てを俺は愛する
記憶の中だと自分と目線の高さが同じだったあの人。
今は俺の腕の中に収まる程、小さくて華奢なのに俺は気付いた。
こんな事を気付かないぐらいに、俺は離れていたのか。
愕然とした。
後悔だってした。
「愛している、どんな事があっても」
あの人は目を見開いて、泣いた。
そしてゆっくりと唇を重ねた。
もしも違う未来があって、あの人が隣に居なくても、俺は此れだけは言い切れる。
それでも君を愛し続けた
【それでも君を愛した10のお題】
シュッレーディンガーの猫様よりお題拝借。
日記再録 110822