聖なる焔 act.00

注意
この話はBL表現を含んでいます。
また、『八雲』の盛大なネタばれから話が始まります。
今回は『聖典』の人物は一人も出ません。

よろしいですね?









その御霊(ミタマ)は焔(ホムラ)
優しく
等しく
全てを照らし
受け入れ
包み込む
その澄み切った瞳は琥珀
慈悲と深淵なる嘆きを内包している
神がいるのならば、”オマエ”がそうであろう
俺は”オマエ”の優しさに逝きたい





聖なる焔 act.00 終焉___それは始まりでもある





あの日、出雲は雲一つない晴天だった。
眞前さんの手によって封印されていた、
あのドス黒くおぞましいモノーーー”念”は解放されてしまった。
間に合わなかった………。
このまま世界は終わってしまうんだろうか。
みんな、死んでしまうのだろうか。

「いや、大丈夫だ」

俺の恋人ーーー闇己君はとても静かな静かな目で見ていた。
一年ちょっとの付き合いだけど、濃く深く関わってきた俺達。
俺はそんな表情を見たことがなかった。
彼は、闇己君はきっとずっと前から覚悟していたんだと思う。
俺は君に何もしてあげられなかった。
俺は君の想いに気付けなかった。

「見事な邪神(マガツガミ)だ………」

眞前さんは蒼い空を飲み込み今もなお広がり続ける暗黒を見て笑った。
ーーー終焉を、退屈な世界に終わりを求めていた人。
暗闇は炎の様に揺らめき、眞前さんの肉体を魂を精神を飲み込んでしまった。
闇己君はその場に居た他のみんなを安全な所に避難するように言った。
俺を含めみんなは、闇己君を信じていた。
だから、闇己君の指示に従った。
混沌とした”場”には俺と闇己君の二人だけになった。
”念”はこれから大流出が始まり全てを飲み込んでしまうだろう。

「同じだな………あんたと初めて会った維鉄谷(いふや)のよると同じ、
 フリダシに戻ったな」

静かに闇己君はそう言った。
ゆっくりと俺の方を見た。
その美しい双玉には強い光を宿していた。

「俺はこの”念”を総て取り込む。
 その瞬間俺を 殺 し て 俺ごと昇華してくれ」

それは決定だった。
他の道は、未来は、選択できなかった。
必要なモノも、時間も、何一つなかった。
初めて出会った時からこうなる運命だったのだろうか?
こうするために…………出会った、と言うのだろうか?
闇己君は手に持っていた神剣を俺に持たせ、背を向けて歩き出す。
この剣はとても重い。
その背がとても遠い。
いかないで、欲しい。
まだ、おれはーーー
今一度、闇己君は立ち止まり、ゆっくりと振り返った。

「これだけは………言っておきたかった」

その顔が優しくゆるむ。
俺の心はこんなにも荒れ狂っているのに。
涙がこんなにも溢れて、止まらないのに。
こんなにもーーーー イ タ イ のに。
そして闇己君は静かに笑った。

「俺はあんたに会って 救 わ れ た 。
 ーーーーー愛している

君の姿は闇へ。
闇は、邪神は、闇己君の内へと入っていった。
涙は止まらない。
君を邪神にしない為に、俺は剣を抜いた。
こんな結末を迎える為に出会ったのか。
ずっと、ずっと、一緒にいたかった。
また春を迎えて、
夏の暑さに項垂れて、
秋の美しさを共に見て、
冬の寒さに寄り添いたかった。
隣で……………………笑いあっていたかった。
聞いて欲しい。
俺は本当に君の事が大好きだ。



     あ   い   し   て   る



「あ…あぁぁああああァッ!!!」

剣を闇己君の腹部に刺した。
闇己君の顔が苦痛に歪む。
剣の重い感触を俺に伝える。
すると突然、闇己君は俺の肩を掴んで、抱き寄せた。
剣はより深く深く闇己君の身体を貫いた。
俺は君の腕の中にしっかりと抱き込まれた。

「これで……………いい____」

耳もとで聞こえた君の声はかすれていた。
血の臭いが鼻をさす。
剣の柄をつたい、暖かくぬるりとした液体が俺の手を汚す。
後は俺にも何が何だか解らなかった。
ただーーー強い、光が来た。
巫覡の呼ばれ来た”気”のような突風が吹き抜ける。
風が、彼を、闇己君を攫った。
そこには、もう、何もなかった。
大切な人も、”念”も、総てが昇華された空間だけが、ぽっかりと残った。
どうして、こんな運命だったんだろう
どうして、闇己君だったんだろう。
どうして、
どうして、
どうして……………………


君の覚悟にすら気付いてやれなかった。
君はこんな張り裂けるような胸の痛みを抱えていたんだ。



俺は_____一生自分を許せない_____



闇己君
闇己君

くらきくん


くらきくん



く ら き く ん




く  ら  き  く  ん






























「………た………たけ………タケ!」

身体が強く揺さぶられ、起こされた。
覚醒が上手くいってなくて頭痛がする。
目を開けば、美しい黒が覗き込んでいた。

「タケ?起きたか?」
「うん、ありがとう」

隣に腰をおろして俺を抱き寄せた。
あまり変わらない身長差だけれでも、包み込まれると落ち着く。
自分よりも男らしくて、なんかちょっぴり腹立たしい気もする。
でも、そのあたたかさは気持ちいい。
安心できるし、此所にいるんだなって感じがする。

「どうかしたのか?」
「ううん、ただ夢見が悪かっただけだよ」

先程よりもさらにぎゅっと抱き締められる。
とても………落ち着く。

「大丈夫か?」
「うん、君がいるから………」

そう言って、俺は君にーーー《 闇 己 》兄さんに笑いかけた。






下書き   090325
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