春の心地よい日射しを浴びながら、日本の家の縁側でぼんやりしている人物がいた。
イギリスだ。
恋人となってからは可能な限り密に会うようになった二人。
一ヶ月ぶりに一緒に過ごしていたのだが………
(仕事なら仕方ないな………)
そう、恋人の日本は急な仕事で出かけてしまい、イギリスは暇を持て余していた。
ごろりと、行儀悪く仰向けにねっころがり悶々と妥協の言葉を探す。
(べ、別にひとりは慣れてるし!)
(暇なんか、いくらでも潰せるし!)
ここで、「寂しい」とか「もっと一緒にいたい」とか言えないのが、イギリスクオリティーである。
別名、ヘタレなツンデレ。
くぁぁ
イギリスの傍らで丸くなってたポチがうららかな日射しの中、眠そうなアクビをこぼした。
あたたかく、日本の四季を通じて一番過ごしやすい春は、イギリスの目蓋をいとも容易く重くした。
(………帰って……きた…ら…………)
昔の人はよく言ったものだ。
『春眠不覚曉』
イギリスの意識はおちていった。
***
時計が午後の三時をさした頃、日本が超特急で用事を済ませて帰って来た。
ガラガラともう随分見なくなった障子戸を開くと、愛犬のポチが尻尾を降りながら出迎える。
その愛らしい姿に頬をゆるめつつも、気になっているのはただ一人。
イギリスだ。
(もう!せっかくイギリスさんが来てくださったのに、わざわざ呼び出すなんて!)
あのスットコドッコイ=上司腹痛起こせ!と言わんばかりに日本が毒づいた。
(日本の口からコルコルという声が聞こえたのは気のせいだと思いたい)
荷物を自室に置きがてら、イギリスの姿を探す。
「イギリスさん?」
呼びかけても返事がない。
(タダノ シカバネノ ヨウダ)
日本はスーツから普段着に着替えてから、本格的にイギリスを探しはじめた。
と、言ったって、たかだか一軒家。
かくれんぼをしているわけでもないから見つけるのはあっという間だった。
「………眠っていらっしゃいますね」
穏やかに上下する胸に、やすらかな寝息。
すこしだけゆるんだ口元がイギリスを幼くみせる。
「ふふふ」
日本が思わずこぼした笑い声を殺しながら、膝掛けを持ってきて、イギリスの横に腰を下ろした。
膝掛けの一つをイギリスにかけ、もう一つは自分にかけた。
(もう、少しこのまま)
そのまま寝続けるには後一時間も経てば無理だろう。
それでもこの穏やかな空気をいつまでも、と日本は思った。
ただ、何気ない日常をそっと噛みしめた。
091202 下書き
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