袖の氷


私とイギリスさんとの同盟も後一週間で終ります。
これも私たちの上司が決めたことです。
私なんかその決定を覆すなんて到底無理なことです。
私がどんなに望んでも…………
イギリスさんと同盟を組んだ日を今でもハッキリと覚えています。
あの頃私は鎖国を無理矢理解かれてしまい、右も左も分かりませんでした。
そんな私の手を取って導いてくださったのが、イギリスさんでした。
月のような金色の髪に若草色の鮮やかな瞳。
私よりも高い背に低い声に不器用に優しい言葉。
丁寧に色々なことを教えてくださいました。
同じ島国なのに素晴らしく発展しておられ、大変勉強になりました。
それも、もうすぐ終りですが…………
あの方に、イギリスさんにお会いしたい。
この気持を伝えてしまいたい。
いえ、伝えてはいけない。
ただの重荷にしかならないのです。
運命は新たな血を望んでいるのでしょう。
もう、進むしかない私に迷いも弱さも不要。
鍵をかけて、心の奥底にしまいましょう。
もしも、もしも許されるなら____





「今日でこの同盟は破棄される」
「えぇ、そうですね」

上司の命より最後にイギリスさんに会うことができました。
冷めた空気しか互いの間には流れません。

「次会うときは、敵同士だ」
「___容赦はしません」

優しい時間は幻だったかのかも知れません。
これ以上私たちは言葉を交じわす事はありませんでした。
もしも、あの時貴方に「行かないでください」と言えていたら未来は変わったのでしょうか。
いえ、変わらなかったでしょう。
私も彼も民意に従わなければならない存在。
どんな言葉を重ねたって虚しいだけです。
でも、言う事ができたらよかったのに……………





意識が浮かぶ。
ぼろぼろの体で見る夢の最後はいつだって、あの日の別れ。
何時からか憧れが、恋に変わっていました。
貴方に気軽に会えた頃の幸せが、酷く…………痛い。
余りに遠い距離が現実。
起き上がらない私の体。
そう、私は私たちは負けました。
私はアメリカの監視下に置かれることになりました。
酷く単調な毎日がただただ続いていきます。
あぁ、イギリスさん。
貴方が恋しい。
会いたいのです。
また、貴方の隣に立ちたいのです。
どうしたらいいのでしょうか。



「イギリスさん____」



返事をする声はない。
終り

090806 下書き
100822 アップ

【袖の氷(そでのこおり)】
涙にぬれた袖がこおること。
悲しみに閉ざされた心のたとえ。
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