待望


世界を巻き込んだ第二時世界対戦も終結し、敗戦国・日本の自治権がようやく明日戻されることになった。
その日をずっと、ずっと待ち望んでいた国がいた。
____イギリスである。
彼の腐れ縁のフランスが少女のようだと揶揄される位に、イギリスは心待にしていた。
だが、同時に不安があった。
日本は俺を恨んでいるのはないだろうか?
本当は会いたくないんじゃないだろうか?
どんなに言葉を繕ってもイギリスは戦勝国であるし、日本は敗戦国である。
日本との同盟だってもう、過去の話である。
初めての友人にして初恋の人。
恨まれ、嫌われ、憎悪の瞳で睨まれたらどうしよう。
全面的に日本を戦後見てきたアメリカとはどうなったのか。
イギリスの頭に浮かんでは消え、また浮かぶ。
どうしようもない不安は影のように付きまとった。

(明日、この船は日本につく)
(そしたら俺は日本になんて言ったらいいんだ?)

穏やかな波ゆえに、またあの大航海時代の経験ゆえに、酔うこともなく思考の海に溺れていった。

(何て………言おう)

何時しか客室から穏やかな寝息が聞こえてきた。





日本の諺で“案ずるよりは産むが安し”とは言うものの、なかなかふっ切れないのが人である。

(…………ついた)

予め本国から来日の旨は伝えられているはずである。
日本の律儀な性格だから必ず迎えに来ていることだろう。
イギリスはすぐに、懐かしい人を人混みの中から見付けた。
イギリスの記憶の中の日本と全く変わっていない姿。
色鮮やかに懐かしい記憶の波がイギリスに押し寄せた。
切なくて、
嬉しくて、
楽しくて、
悲しくて、
憎らくて、
傷つけて、
辛くて、
愛しくて、
愛しくて、
愛しくて、
大切な記憶≒感情。
イギリスには言いたかったことは沢山あった。
俺のこと嫌いか?とか、
もう、大丈夫か?とか、
今までどうだった?とか。
波がイギリスの中を掻き乱し荒らす。
言の葉はイギリスの口から溢れることなく、イギリスは日本の前に立った。
日本は相変わらずに柔らかく笑った。

「イギリスさん………」
「____会いたかった」

珍しいイギリスの本音。
全ての日本への思慕が込められた、たった一言。
真摯なモスグリーンの瞳が日本、唯一人をうつした。
日本はそんな真っ直ぐな言葉に目を見開いて、驚いた。
そしてイギリスの手を包み、

「___私もお会いしたかった」

と小さい声で囁き返した。
そして二人の影が重なりあった。







▼おまけ

管理人は打ち終ってから気が付いた。
船を降りて二人が向かい合ったとこまでしか書いてない!?
と、いうわけでオチ。

英「//////////」
日「//////////」
英の秘書A(以下A)「………」
日の秘書B(以下B)「………」
A「貴方達は従来で何なさってるんですか?」
B「あーひとまず、移動しましょう。人目がありますので」
英「…………感極まって」
日「は、早くしましょう!/////」
B「車はあちらです」

終り

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