パラレル要素あり
黄笠成立済み
この世界には、様々な《病》を人は必ず持っている。
あるいは、運命として抱えていると言っても良い。
その病は完治はあり得ない。
人はただ、付き合っていくだけだ。
*
世の中には、持病と自病がある。
前者は、なかなか治らず、常に、または時々起こる病気。
そして後者は、運命病とか業病とか呼ばれる、特殊な《病》。
この運命病や業病は生まれてから死ぬまで付き合っていかなくちゃいけないものだ。
まぁ、症状が出始めるのは人によってまちまちで、それこそ赤ん坊の時から悩まされている者もいれば、死ぬ寸前まで症状が出ない人もいるそうだ。
平均的には三十代中頃までには、日本の人口の八割は自病が発覚しているらしい。
またこの《病》には三つの共通項がある。
一つ目は、誰もが持っている事。
二つ目は、《病》が進行すると病気症状以外の《侵食》がある事。
三つ目は、《病師》に《薬》を診て貰えることで、症状を押さえられる事だ。
かく言う俺自身はまだ自病が判っていない組だ。
まあ、俺の事はどうでもいい。
黄瀬と付き合い始めた時、黄瀬は俺に《病》について教えてくれたことがある。
本人曰く、末端獣化病という《病》らしい。
爪が狼みたいに鋭く丸まり、指先や足先から毛深くなるそうだ。
「それで、進行すると、言葉を忘れていくんスよね」
「え。それ結構大変じゃねーか!? 《薬》しっかり取ってるんだろうな?」
「ちゃんと取ってるッスー!! 雪解け水何で手に入れられ易いから大丈夫」
からからと呑気に笑ってるが、心配なもんは、心配なんだよ。
そんな俺の心情を察したのか、黄瀬は後ろから抱きついて来た。
「でもね、俺自信があるんスよ」
「何がだよ」
「最後まで忘れることない言葉は絶対『笠松幸男』なんスからね!」
事も無げに、真っ直ぐにいわれた台詞を消化するのに時間が掛かった。
本当になんだよ、ばぁか。
「ゆきさん、顔がまっかー」
「見るなよ、ばか」
「えへへ……だいすき」
そう言って幼い子供のようにやわらかく笑った黄瀬に、俺は再び見惚れた。
顔の熱さを感じながらも、やられっぱなしが悔しくて。
俺はそっと黄瀬の唇を奪った。
下書き 150421
掲 載 150421
黄瀬涼太は手足が獣のようになる病気です。進行するとひとつひとつ言葉を忘れてゆきます。雪解けの水が薬になります。 http://shindanmaker.com/339665