君と僕とではんぶんこ



『はんぶんこ』

それは魔法の呪文だ。



 *



誰かと分け合うって言うのを俺はやった事がほぼない。
姉ちゃん二人は俺よりも歳が離れていたし、俺男だから結構一人で食べるし。
モデルしているから同年代よりもお金あったし、顔も良いから女の子から貢がれるしね。
キセキの皆とつるむけど、必要以上にべたべたする訳じゃなかったから、それを経験したのは高校に入ってからだった。

六月の後半にもなると、随分気候は夏に近く気温も高い。
だから体育館は冷房が入ってるけど、動いてるから冷たいものが欲しくなるんスよね。
部活帰りにスタメン皆でコンビニ寄る事が多くなる。
集中するのは当然、アイスボックスだ。

「お(れ)はゴ(リ)ゴ(リ)くんにするっす!」
「じゃあ、俺はきゅきゅっとにします」
「俺はソウのバニラだ! この前女の子に(ry」
「森山はブレないなぁ……。俺はモナカ王にするかな」
「う〜〜ん……センパイは何にするんスか?」

さっさと決めてレジに離れる面々を見送りつつ、唯一まだ選び終えていない笠松センパイの方を見る。
すると、すっっげー真剣な表情だ。
その視線の先にはバピコ……。
甘い物、好きなんスかね?

「まだ買ってないのかよ」
「森山うるさい」
「黄瀬も選んでないんだから、はんぶんこすればいいじゃん」
「ん、そうするわ」
「え? は?」

はい、ケッテー、と森山センパイはぐいぐい俺の背を押してコンビニの外へと追い出された。
俺の決定権はないんスか!?
くって掛かってる間に笠松センパイは買い終え、パッケージからバピコを一つ突き出してきた。
色は真っ白で、先ほどちらりと見た時、新発売とか書いてあったようーな。
なんつーか、意外。

「オマエの分な」
「…………センパイ、バピコ好きなんスか?」
「まぁ、な」

蓋を取ってちゅうちゅうと吸う笠松センパイは何と言うか……子供っぽい。
センパイいっつもしかめっ面だったから、童顔だって気付かなかった。

「早く食べろよ〜」
「うるへぇ」
「黄瀬も早く食べないと融けちゃうよ」
「あ! ヤバ!」

まじまじと見ていて、手の中のバピコは大分柔らかくなっていた。
急いで封を開けて吸い出せば、ヨーグルト風味の冷たさが内側から熱を取る。
うん、やっぱり夏はアイスっスね!
駅までの道を歩き出す。
先頭は森山センパイと中村センパイで、彼女がいる中村センパイにあの手この手で森山センパイが絡んでいた。
あの人、本当にぶれないッス。
次にゴリゴリ君をしゃりしゃり急いで食べた早川センパイが、つ〜んと痛くなったらしく、頭を抱えていた。
そのやや後ろで、小堀センパイがにこにこしながら見守ってる。
そして、俺の隣にはまだバピコを食べている笠松センパイがいる。

「センパイってアイス食べるの遅いッスね」
「あ??別にいいだろう」
「いや、意外だなぁって」

そう言うとちょっと唇の先を尖らせた。

「アイスとかかき氷とか急いで食べて、頭痛くなるのがヤなんだよ」
「へぇ、そうなんスか。俺なんかついつい掻き込んじゃうッス」

それだと、絶対痛くなるだろ、と苦笑する横顔を、まじまじと見てしまった。
こんな風に、笠松センパイって笑うんスね。
なんか、こう、ぎゅっとなる。

「バピコは好きなんだけど、食べんの遅いから片方融けちまうんだよ。だから貰ってくれて、ありがとな」
「____べ、別に気にしないでください! 俺、アイス好きだし」
「そっか。良かった」

ふわり、とセンパイが笑った。
すっげー、熱い。

「は、早く行きましょ!」
「おい、って黄瀬!?」

誤摩化すように、走り出した俺の背中は笠松センパイの声を置いて行った。
一先ず、言える事はただ一つ。

『はんぶんこ』って良いッスね!




下書き 140716
掲 載 140731
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