騎士団に保護された子供達は、親元に帰ったり、孤児院にて新しい生活をされた。
魔導士の非道な実験は利用価値が在るものを除き焼き払われた。
が、その中で唯一大人だった男___雁夜は、彼を助けた騎士___ランスロットの所で保護されるに至った。
雁夜の衰弱が酷く、身体の半分が麻痺していた事と、助けた縁故にそうなった。
一緒に過ごすようになって早三ヶ月程過ぎていた。
最初の二ヶ月程は、衰弱の為に寝込んでいたが、今では床から屋敷の中庭に出られるまで回復し、ランスロットもほっと溜め息を零した。
ランスロットは久々の早引きで、日のあるうちの帰宅となり、屋敷に帰るも、探し人の気配がなかった。
探し求めるように、部屋を覗きながら辿りついたのは中庭だった。
花や樹々が植えられた中庭は広めに取られており、晴れれば柔らかな陽射しが気持ちいい。
庭園と呼ぶよりも自然の森に近いその姿は、ランスロットの育った妖精郷に似ている。
その中庭でベンチに座りながら猫のように気持ち良さそうに日に当たっている雁夜がいた。
「雁夜、日光浴ですか?」
「ん……らんす、おかえり〜」
うつらうつらしていたのか、呂律が回っていなく、いつもよりも幼い印象をもたらした。
ややかたい雁夜の髪の毛を手で梳きながら頭を撫でた。
「お土産に焼き菓子を買って来たので、後でお茶にしましょう」
「いーにおい……」
手に持っていた紙袋から卵とバターの香りが鼻孔をくすぐる。
未だ眠そうな顔をしている雁夜は目を擦りながら、ふわりと笑った。
横に腰掛け、使用人___と言っても妖精だが___が来るまで、穏やかな沈黙を味う。
何もない、日々。
何気ない、一時。
共に過ごせることこそ、至高であることを、まだ彼は気付いていない。
おわり
支部 121209
掲載 140314