呼ばれてますよ獄寺さん


「獄寺」
「……」
「獄寺ーっ」
「…………」
「ごーくーでーらー!」
「………………」
仕事部屋に入ると、朝からデスクワークに勤しむ俺の上司の獄寺さんと、何故か窓際の椅子に縛り付けられている山本さん。
またか、と思いざるをえないのは、以前にも似たような光景を見たのが記憶に新しいからだ。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
山本さんが救いの目をキラキラと向けてきたが、そんな山本さんを一瞥もしてない筈の獄寺さんが、お前は何も見ていない、と洗脳にも似た上司命令を下したので、山本さんから静かに目を逸らした。
がっくり項垂れる山本さんが嫌でも目に入る。
「今度は何が原因で喧嘩されたんですか」
溜め息混じりに尋ねると、獄寺さんが俺と山本さんを交互に睨んだ。
睨まれてるとはいえ、やっと獄寺さんと目があった山本さんはぶんぶん振っている尻尾が見えるくらい嬉しそうだ。
「あのバカが!見え見えのハニートラップに引っ掛かって危うく死にかけたんだ!」
その死にかけた人を椅子に縛り付けて無視してるのか……と、少し山本さんを憐れむ。
「だから、あの女が獄寺は自分と付き合ってるんだって言うからさ。ちょーっと半殺し程度に脅して嘘暴かせようと思って……」
そんなことで人を半殺しにしようなんて、そんな恐ろしい考えをヘラヘラと話さないで欲しい。
まあ、敵だと決めつけた相手には決して容赦しないから、山本さんが守護者全員に一目置かれてる理由なのだと思うけど。
「おい、アイツの口をガムテープかなにかで塞いでくれ」
「はあ…」
ガムテープを持って山本さんの元に行くと、山本さんが幸せそうに笑って獄寺さんを見つめていた。
「……Mなんですか?」
「だってさあ、獄寺、俺のこと心配して怒ってくれてんのな」
それに、と俺にしか聞こえないような小さな声で嬉しそうに話す。
「嫉妬、してくれてんのな」
ノロケ、ってこういうこというんだなー。と山本さんの口にガムテープを貼りながら思った。
今日は休みだった筈の山本さんは、どうせ縛られてなくても獄寺さんの仕事が終わるまでここにいるのだ。
獄寺さんも愛情表現が下手なだけで、山本さんと一緒にいたいからこうしているのだ。
……と、前任の獄寺さんの部下から聞いていた。当初は少し過激な喧嘩という名の愛に戸惑ったけれど、今見てみればこれは世に言うバカップルだ。
「獄寺さん…」
「―――?なんだ」
眼鏡越の上目遣い。無意識にやるこの上司が怖い。が、そんな俺を咎めるように冷たく睨む山本さんの牽制の方が真面目に怖い。
「いえ、やっぱりいいです」
言いかけた言葉を今日も呑み込む。
――――そんなに山本さんが好きなら山本さんの告白に早く応えてあげたらいいじゃないですか!

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