いちばんに。
絶対に。絶対に1番に言うの。
"###ー!"
"何よサッチ、今日もうざいリーゼント引っさげてるわね"
"ぐっお前…相変わらず辛辣だな"
"はいはい。じゃあねバカッチー"
"おいコラー!"
サッチとは、ずっとこんな関係。 サッチのことを好きと気付く前からも、気付いてからも…何も変わらない。
ナースみたいに綺麗ではない。 私は戦闘員だし。
若くもない。 だってもう彼是この船乗って10年目だし。
可愛い性格じゃない。 素直だったらあんな毒舌にならないし。
自分に自信を持てないから、素直になれない。
今まではその他大勢としてお祝いしてきた。 サッチに直接お祝いの言葉を投げかけている人は、親父さんと隊長達と…私じゃ決して敵わないほどの魅力を持ったナースさん。
何一つ女らしいところを持ち合わせていないけれど、もう10年目。 今年のサッチの誕生日こそ、1番に「おめでとう」と言いたい。
「好き」と言えなくても…。
3月23日 23:30
あと30分、と心の中で唱える。 30分前から部屋で緊張するとは…情けなっ…。
「…ああーやばい。普通に言うだけ、言うだけ…」
ブツブツと目を閉じながら言う。 でも、どれくらい経ったのかふと気付く。 緊張する意味はあるのか?
「そうよ、ただおめでとうって言うだけじゃない!告白するわけじゃないんだから!そうよそうよ!」
そうよそうよ、と何度も言ってはガッツポーズをする。 だから、
「なーに騒いでんだ?###」
「ぎゃっ!」
入ってきていたサッチの存在に気付いていなかった。
「くっく、なんだよその声!」
「ううううるさい!てか乙女の部屋に勝手に入ってこないでよ!」
「誰が乙女だよ。大体ノックしても気付かなかったお前が悪い」
「え……」
まさかノックされてるのを気付かないなんて…
そこでふと時計を見ると、23:55をさしていた。
「ええ!?」
「っなんだよ、ビックリすんな」
「あ、ごめん」
ちょっと私何分独り言言ってたの!? 痛いにもほどがあるでしょう! ていうか後5分!? ちょっと心の準備何もしてないんだけど!!
さっきまで落ち着いていたはずの心臓が再び激しく動きだす。 もう目の前でキョトンとしているサッチに聞こえるんじゃないかってくらい。
…てかキョトンとした顔可愛いな……じゃなくて!
「そ、それよりサッチ、何しにきたの?」
「ん?俺はちょっとお前に用事があってなー」
「用事?」
「そ。さて###ちゃん問題です。明日は何の日でしょうか」
そりゃ、もちろん……… そんなの、聞かれるまでもなく知っている。 でもあと2分…2分待ってよ、サッチ。
「え、もしかして知らない?」
サッチはそう言っては屈んで、私を覗き込んできた。
「!!ちょっ近い!知らないわよ!」
ああああ!私のばか…またやってしまった。 いきなりの至近距離のサッチの顔に、つい今まで通りの素直じゃない性格が出てしまった。
そのままの流れでサッチから距離を置こうとして後ずさる。
「っえ…」
でも、なぜかそんな私の腰に腕を回し、引き寄せるサッチ。 さっき離した距離が一気に縮まる。
「ささささっち、何してっ」
「ホントに?」
「っへ?」
「ホントに明日が何の日か知らね?」
知ってるけど!! 思いっきりそう叫んでこの腕の中から抜け出したい。 もう心臓がもたない気がする。
でも、せっかく決意したんだもん。 1番に「おめでとう」って言うって。 それはちゃんと24日になってからじゃないと意味がない。 もうここまでくると意地だ。
サッチの視線を受け流しつつ、横目で時計を見やる。 すると、もう1分切っており、秒針も10を回っていた。
あと5秒…4…3…2…1…
「サッ………!」
いざ言おうとした。 サッチと呼んで、おめでとうって。
でも目線を戻して、声を出した瞬間。 頭の後ろにサッチの手が来たと思えば引き寄せられ… 目の前には目を閉じたサッチの顔。 唇には、柔らかな温かい感触。
ぽかんと惚けているうちに、サッチの顔が離れていく。
「好きだ、###」
そんな中、突然言われた言葉。 もう脳内パニック状態で訳が分からない。
「いきなりキスして悪ぃな。でも、そろそろ決着つけたくてさ。」
「…決着…?」
「…ああ。ずっと、好きだった###」
もうここまでくると頭の中も整理できてきて… でもとてつもなく恥ずかしくて… 私はボンッと音がするんじゃないかってくらい一気に赤くなった。
「………返事は?」
「へ!?え、あ、ああああの!!」
どもりまくる私を見て、サッチはくっくっと笑う。
何か言おうと思っても、何も出てこなくて。 ただ口をパクパクと動かすだけ。
でも、ふと気付く。 まだ言っていないことに。
「サッチ、」
「お?」
「た、誕生日おめでとう!」
いちばんに。
とりあえず、これだけは先に言いたかったの。
(おーサンキュー。てか知ってたんだな) (…知ってるよ) (ん?) (だって…私もずっと好きだったもん) (!)
そしてあなたは、くしゃりと笑った。
|