わたしの見た夢は少し違うけれど | ナノ
夢で見ていた
「夢で見ていた子どもたち?」
机を挟んで談話している二人の男性のうち、年下と思われる茶髪の男が素っ頓狂な声をあげた。
もう1人の、白衣を着た中年らしき男性は、少し照れ臭そうに笑い、カップを置いた。
「ああ。笑ってくれて構わんのだが……その子どもたちが、昨夜、研究所を訪れたんだよ」
「その子たちに、見覚えは?」
「それが、全く無くてな。近所に住む子どもでもないし、どこかの街で逢った覚えもない。
ただ、夜に突然訪れて、泊まる所が無くて困っている様子だったから、一旦研究所に泊めた後でノーチェスのユースホステルを手配してやったんだが……」
「?」
「……何か、まずいことをしただろうか」
その言葉に、男は濃い茶色の髪を揺らして、ふふ、と笑う。
「そんなに気を遣わなくても、誰も貴方のすることにケチを付けたりしませんよ」
「いや、すまんね。どうもこの世界は、少し繊細に出来すぎている気がしてな。自分の行動が、何か影響を与えてしまうんじゃないかと、そんなことは無いと知っていても、つい考えてしまうんだ」
「影響は受けやすいかも知れませんが、同時にいくらでも修復可能な世界ですからね」
「文字通り、何でもできる世界、だな。ここに腰を落ち着けてだいぶ経つが、未だに興味の尽きない地方だ」
「退屈はしないでしょう」
確かにな、と頷いてコーヒーを一口飲み、そうだ、と白衣の男性は顔を上げた。
「話は戻るが、その子どもたちは今、地方を散策しているらしくてな」
「ああ、そのようですね」
先程、タンインジムリーダーのルチが「元気な子たちが、挑戦をしに来ましたよ」と世間話の中で言っていたことを思い出す。おそらく、散策中の子ども達のうちの、誰かだろう。
「泊まる所が無いということは、彼らがここに来たのは、何か突発的な事故によるものかも知れない、と私は考えているんだ」
「わたしもそう思いますよ」
カップに残ったコーヒーを飲み干して、白衣の男性は改まった顔で言った。
「彼らに何か困ったことが起こったら助けてやるように、コハルには言ってはあるんだが。君も少し、気にかけてやってくれないか」
「もちろん。他ならぬ博士の頼みですからね。わたしに何か力になれることがあれば、喜んで」
「いや、きっと何事も起こらないだろうが。ノーチェスからはリーグも近いから、四天王の君に頼んでおくと、安心するような気がしてな」
「安心」ね、と男は心の中だけで呟いた。誰に言われずとも、自分は彼らを気にかけるつもりでいた。それは庇護心からそうするのでは無く、「害か無害か」それを判別するため、それだけの理由なのだが。
自分も同じような夢を見た、とは、あえて男は言わなかった。
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