氷の抜け道での出会い | ナノ



氷の抜け道での出会い

 「本日は午後から豪雪なり、大雪や雪崩に注意」とラジオが言っていたとおりの天候になった。
 まったく、何もこんな日に用事を云い付けなくても……と文句を垂れながら、レジンは氷の抜け道を進んでいた。
 チョウジタウンを出た時にはパラパラと舞っていた程度の降雪が、吹雪へと変わるのに時間は掛からなかった。洞窟の中までは雪は入って来ず、抜け道を出ればフスベシティはすぐそこ、とは言っても、気温はとっくに氷点下。テンションも下がるというものだ。

「おー寒っ……イノムー、ちょっとこっち来てくれないか?」

 ブフーっと鼻を鳴らして寄って来たイノムーの身体に身をうずめると、ぬくぬくと温かい……訳でもなく。

「うわ冷たっ!……そうか、毛が凍ってたのか」

 抜け道に入るまでに体毛に積もった雪が、この気温で氷になっていたのだ。
 申し訳なさそうに垂れる耳を撫で、奥へ進もうと一歩踏み出すと、

「ブルルルルッ!!」

 イノムーが毛を逆立て、警戒態勢に入った。
 突然の事態に身構えていると、氷の陰から一匹のジュゴンが現れた。レジンは驚く。ここで野生のものを見たという話は無い。それに、イノムーの様子からして、かなりレベルが高そうだ。どうやら向こうから攻撃を仕掛けてくる様子は見られないが、何故、こんなところに?
 場合によってはバトルになるかも知れない、と様子を伺っていると、どうしました、と奥から声が聞こえた。
 なんだトレーナーが居たのか、とホッとする。それにしても人騒がせなやつだ。

「おい、トレーナーならちゃんと……」
「ジュゴン、何をしているのですか」

 真っ白な氷の間から、真っ白な人が現れた。

 つららのように透き通った長髪、透けるような白い肌。同じく真っ白な、薄手の着物。それに草履。
 その風貌もさることながら、こんな寒い日にこんな格好で出てくるなんて、とても人間とは思えない。オカルト系は信じてこなかったが、ついに出会ってしまったのか。

「ゆ、雪女……!」
「え……? ふふっ、あはは!」

 突然笑い出した雪女に呆気に取られていると、彼女はジュゴンをボールへ戻し、ペコリとお辞儀をした。

「ジュゴンが驚かせてしまったようで、すみませんでした。……ふふ、安心して下さい。私は人間です」
「あ、いえその、こちらこそスミマセン、失礼な口を……」

 どうやら呪われるようなことは無いらしいが、レジンは別の意味で緊張していた。
 人間離れした薄着にも驚きを隠せないが、改めて見ると、彼女はとても整った顔立ちをしていた。というか美人だ、まさに雪女と見紛う程の。美人にめっぽう弱い自覚のあるレジンは、ついドギマギしてしまう。

「え、えとあの、どうしてこんな所に?」
「ああ、帰り路の途中だったのですが、雪が酷くなってきたので、ここで吹雪をやり過ごそうかと思いまして……」

 その薄着でか!?と言いたい所を我慢した。なんにせよ、こんな薄暗い洞窟を一人で進むのは、いくら強いポケモンと一緒でも危ないだろう。

「あの、もし良かったら、オレ……チョウジまで一緒に行きましょうか?」
「それはありがたいのですが、貴方はフスベシティへ行かれる途中では?」
「いやでも、こんな所に女性が一人で居るのは、どうかと」
「女性…… あはは!」

 再び笑いだした彼女は、涙を拭って(その挙動すら綺麗だと思った)、

「すみません、私、こう見えてもれっきとした男なんです」



 44番道路に出る頃には吹雪は治まり、朝と同じようにパラパラと雪が舞う程になっていた。
 結局、必死に謝り倒しながらチョウジまで戻って来てしまった。云い付けられた用事のことなど、とっくに頭から飛んでいた。

「もう本当スミマセン、オレ、すごく恥ずかしい奴ですね……」
「ふふ、気にしないで下さい。それよりも、吹雪、止みましたね」

 申し訳無いのと恥ずかしいのとでずっと俯いていたレジンも顔をあげ、薄く曇った空を見上げる。この様子なら、明日の午後には晴れるだろう。

「ここまで付き合って下さって、ありがとうございました。貴方の名前をお伺いしてもよろしいですか」
「あ、レジン、です。この街でジムトレしてます。えっと、あなたは……」
「イリ、と言います。またどこかで、お会いするかも知れませんね」
「どこかで、って、イリさん、チョウジの人じゃなかったんですか」
「実は、ここには一時的に住んでいただけでして……出身は別の地方なので、これから帰るところだったんです」
「あ……そうなんですか」

 それは残念だ。一度手合わせをしてみたかった。ジムで戦う者として、強そうなトレーナーと出会う以上の喜びはない。最初に見たジュゴンも、かなり強いに違いないのに。

「また、会えますかね」
「会えますよ、きっと。その時は是非、バトルをしましょう、レジンさん」
「……! 負けませんからね」

 手を振って遠ざかっていくイリを見送りながら、久しぶりに感じる胸の高鳴りが心地良い。また、会える。今度は、好敵手として。何故かそう確信できた。そんな主人の喜びを感じ取って、イノムーも嬉しそうに鼻を鳴らした。


 時が巡って再び相見える時、お互いが四天王になっているとは、いったい誰が思っただろうか。


----------
レジンくんがチョウジのジムトレだった頃のお話。イリレジ!
この後、巡り巡ってタリアで再会する予定の二人です。
サブタイトル:レジンくんの初恋(違


return

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -