花、ほころぶ。



真央高校、春ー


「はい、じゃあ転校生自己紹介してー」
「扁平足の平に辛子明太子の子、真性包茎の真に小野妹子の子で、平子真子ですぅ〜よろしくでぃーす!」
「平子くん、ちょっと字が逆だ」
「あぁ、俺得意やねんでさかさま。うまく書けとるでしょ?」
「さかさまって…まぁいいや、みんな仲良くしてもらえよ!で、平子くんの席は窓際の一番後ろね。」
「はーい…ってせんせ、俺の隣の席空いとるけど、誰もおらんの?」
「え?あぁ…あいつはたぶんそろそろ来るはずだから。来たら仲良くしてやって。ま、席ついて待ってて!」
「はァ…」



俺は自分の隣の空席に目をやりつつ、指定された席についた。

なんや…転校生って肩こるもんやなぁ。
けどまァべっぴんさんが多いクラスでよかったわ。
よく見ると変な奴もおるけどな。
男のくせにヒラヒラした服着とる奴とか、ムッキムキの奴とか…
俺の隣は変な奴やないとええな…

そんなことを考えてた俺は少しボーっとしてたんやと思う。
不意を突かれるように、教室の扉が勢いよく開いた。
その音に驚いて扉の方を見ると、女が立っとった。



『せんせ、おはよ!!』


扉ンとこに立っとった女は、サラッサラの茶髪ロングで、くりんくりんの目しとる。
正直、むっちゃタイプや。
もしかして、俺の隣か…?


『ね、せんせ、私今日はセーフでしょ?』
「何がセーフだ、苗字!完全に遅刻だよ!」
『うそだっ!私走ってきたのに!』
「走ってこようが遅刻は遅刻!ほら、座れ。」
『ちぇー…って、せんせ、私の隣、だれ?』
「あぁ、転校生。仲良くしてもらって。」
『はーい!任せて!』
「おし!HR終了!みんな授業行けよ〜」

女はそう言うと、俺の隣の席に着いた。
気のせいか、エエ匂い…って、何嗅いどるんや俺は。


『はじめましてー!苗字です!転校生の何くん?』
「あァ、俺の隣のコやな!平子真子や!よろしゅうな〜」
『平子くんね!よろしくね〜!』

そのコは、微笑みながら話しかけてくれた。
目尻をキュって細める笑い方に、正直キュンとしてしもた。
アカン…ほんっとカワエエな、このコ。
スタイルも抜群やし。


―…?
おっかしィなァ…なんや、この感じ…
でじゃびゅーゆうやつか?
このコ…前会ったことあるか…?




『…平子…真子…?』
「え?」

そのコが怪訝そうな顔をして、俺を見てきよった。

『まさか、…ハゲ?』



「―はァ!?」



そんな呼び方する奴、アイツしかおらへんけど…
―あ、このコの名字、苗字ゆうたな…
苗字、苗字、苗字…―――!?



「まさか、オマエ、苗字名無しか…!?」
『やっぱり、ハゲ真子!?』
「誰がハゲやねん!!!」


あ、しもた…大声出してクラス中シーンとさせてもた…


『ちょっと、どうすんのこの空気…』
「…ちょっと廊下来ィ。」
『え、ちょ、真子!?』


俺は名無しの腕を掴んで廊下に引っ張り出した。
教室全体がザワっとして、またもや注目の的やけど、そんなんもう気にせえへん。
もうヤケクソやったるわ。
しっかし白細い腕やな…って、だから何考えとるんや俺は…


『ちょっと、真子、腕痛い。』

廊下に出た途端、名無しは神妙な顔をして、俺の手を振り払ってきよった。

「あ、あァ…スマン。」
『…いつ、こっちに帰ってきたの…?』
「一週間前や。…何年ぶりになるんか…」
『…今17だから、11年ぶり…。』
「もう、そんなんなるんか…俺の父チャンがおらんくなってから…」
『そうだよ、いきなりいなくなって…。隣に住んでた者の気持ちも考えてよ…』
「スマンな…ホンマ…」



俺と名無しは、昔隣に住んでた仲、いわゆるお隣さんっちゅーやつやった。
ガキの頃は毎日毎日よぉ一緒に遊んだもんや。
けど、俺の父チャンが浮気しよって家出てって。
そんで俺と母チャンはばぁちゃんちに引っ越した。
今やから状況理解できるものの、5歳や6歳のがきんちょに理解せえっていう方が無茶な話や。
せやから、俺はいきなり名無しの前から消えたんも同然や。


『真子は、相変わらずだね…話し方も、性格も、それから…』
「それから、なんや?」
『ハゲも。小さいころから禿げてたもんね。』
「やかましいわ。ハゲてへんわ。そういう名無しは見た目はべっぴんさんになったけど、中身はガキのまんまやな!」
『な 失礼な!私だって大人になったんだから!』
「嘘やろー?冗談やめてぇな!って…何笑っとんねん…」

ふっと、名無しの顔に目線を移したら、さっきの神妙な顔つきから笑顔に変わっとった。

『え…?なんか、こうやってふざけ合うの久しぶりだなって思って…』
「…せやな…」


少し涙ぐんで笑う名無しを見て、俺は素直にきれいやと思た。
中身は変わってへん、やけどコイツも11年の間にきれいになったんやな…


「―ま、同じクラスゆうんも何かの縁やし、また前みたいに仲良うしようや。」
『えー、どうしようかな?だって…ハゲだし…』
「ハゲてへんわ、ボケ」


俺がそう言うと、名無しは今度は声を上げてアハハ、と笑た。
と、名無しは俺の目を見てこう言った。

『真子、お帰り。』


せやから、俺も、こう返した。

「あァ…ただいま。」



俺らが再会したんは4月、真央高校の桜が満開になった日やった。






ちなみにこの後俺らが教室戻てみんなに質問攻めにされたのは、言わんでもわかるやろ?


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