どうやら清木は、風邪を引いているらしい。
顔は紅潮し、目は少し潤んでいて、呼吸も苦しそうだ。
「大丈夫か?」
「……………」
清木は、自分が弱っているところを見せたくないのだろう。
俺の問いを黙殺し、顔を反らしていた。
「道場で稽古をつけているときに倒れたんだろ?」
「………………」
「そっからどうやって帰って来たんだよ」
「………………」
何があっても返事を返すつもりはないらしい。
「…知らせてくれれば、迎えに行ってやったのに」
「………黙れ」
ようやく返ってきたのは、可愛げのない返事。
「そうやって強がってないで、体調悪いときくらい甘えてみたらどうだ?」
と、意地悪く問いかけてみたら、怒ったのだろう、さらに顔を赤くして体を起こそうとした。
俺は慌ててそれを止め、清木の体をそっと布団に押しつけながら、心配してるんだ、と囁いてやった。
清木は、少し恥ずかしそうに顔を背けて、
「…うつしてしまうかもしれない」
と、呟いた。
気にするな、と言いながら、清木の頬をそっと撫でてやる。
「熱いな…、少し寝た方がいい」
と言うと、清木は大人しく従い、目を閉じた。
しばらくして、規則正しい寝息が聞こえてきた。
普段は見られないような弱々しい清木の姿をいとおしく思い、そっと口付けでもしてやろうか、という衝動は、見舞いに来たらしい講武館の門弟の声によって押し留められた。