気紛れ大王の気紛れ



はたから俺を見れば自室で紅茶を優雅に飲んでいるように見えるだろう。

しかしそれは大きな間違えなのでその考えはすぐに捨てて欲しい。
俺の部屋は今、気紛れ大王が大きな顔をしてのさばっているのだ。

相変わらず俺の部屋に居座るこいつは向かい合う二つのソファーの一つを占領している。邪魔だ、と言えば邪魔しているんだから当たり前だ、なんて訳の分からない返事が返ってきた。なんの為に邪魔をしているんだ、なんて正論はきっと役に立たないだろう。
ふー、と大きな溜息が出た。
俺は寝転がりながら雑誌を読むシグバールを怪訝そうに見た。普段なら頬を緩めて飲む紅茶も今は大して美味しくはない。
「なあ」
抑揚のない平坦な声が俺を呼んだ。
「なんだ」
短く返せば黄金の視線だけが動いて俺を映す。そしてそれが意地悪そうに細まったかと思うと口元がにやりと上がった。
「男女が別れる時に「これで最後だから、キスして」っていう一連の会話があるだろ。あれ、普通にいらなくないかってハナシ」
「………」
待て、いきなり口を開いたかと思えばこれか、おかしいだろう。大の大人が、大の大人にこんな事を聞くものなのか?
なんだかなんとも言えない複雑な気分に息が詰まりそうになった。
「はあ……どうしてこの機関のナンバー2は阿呆なんだ…」
せめてもう少し若気のいたりという言葉で済ませられるような人物に口にして欲しかった。いや、そもそもこんな馬鹿げた事を若者の口からも聞きたくないが。
「まあ、気にするなって。俺はそんな別れ方はしないから安心だぞ」
また何を言い出すんだ、そう口にしようとした瞬間シグバールの顔がこちらに向いた。思わず出かけた言葉が喉元で止まった。
「そもそも別れてやる気なんてさらさらないってハナシ」
悪戯に言われた言葉。こいつは何を気にする訳でもなくまた雑誌に目を戻した。
俺は急な事に驚いたがなんだかこいつらしいと思わず笑った。
「そんなこと知っている」
そう言って飲んだ紅茶は普段通りの美味しい味がした。我ながらなんて単純な頭だ。

また明日も気紛れ大魔王は此処にいるだろう。
安易に想像出来る未来に
笑った


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