衝動<奴

葛藤、葛藤
そしてまた葛藤

(髪が、
髪が、伸びた気がする)

朝、体を起こすと一番にそんな事を思った。
正直私はこの髪があまり好きではない。むしろ武士なのだから男らしく切ってしまえばいいのに、なんて思っていたりもする。視界で揺れるこの白髪を

(切ってしまいたい)

そうぼんやり考えているうちに自分の髪を握り締めていた。そして長い間じぃ、と髪を見つめる。
「……」
やはり、此処まで伸ばしてきた年月の長さ故に愛着はある。しかしそれ以上に今は切ってしまいたいという衝動にも駆られている。切るか、切らないか。この髪が好きなのか嫌いなのか。
(全く、どうしたら良い)
最近では毎朝この事で自分に苛立ちを覚えるようになってきた。一言で片付けるなら早く切ってしまえば良い。朝纏まらない髪が目障りだ、結わなくてはいけない事が面倒だ、風に吹かれ自分の視界に入るのも鬱陶しい。
そう、考えている通り一思いに切ればいい。

『      』

「……」
しかしこの思いの最後に出てくる奴の姿。
何年前か、それとも何十年前かはとっくに忘れてしまったが今より断然幼い奴は言ったのだ。

「綺麗な髪だな」

と。太陽と同じ位明るい笑顔でなんともないように言った。
それだけのことだ、別に切って欲しくないと言われた訳でもなんでもない。たったそれだけのことなのに、私の決意はこれで脆く崩れ去ってしまうのだ。
髪を握り締めていた手がゆっくり開いて白髪がさらりと布団に落ちていった。流れるような髪に舌打ちしながら立ち上がった。

また
髪を切り損ねた

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