ソレと僕とお前と
吐きそうです。分かって欲しいです。
なあ、分かってくれ。
そう言ってすがり付いた相手は運悪く。僕より崩れたやつだった。
「灰色の未来がきみにも見えるんだ」
へえ、なんて冷たく言うルックが僕を見下ろしていた。
「はっ、ぁっ…なんだ、なんなんだ!これは!!」
頭が可笑しくなりそうだ。
寝れない、寝れない。寝れない!
寝るのが怖いなんて初めてだ。
幼心に感じた闇の怖さのような、影の全てが恐ろしく感じて落ち着いていられない。
自分の中にある『ソレ』は僕を飲み込もうとずるりずるりと影の手を伸ばしてくる。ああ、逃げ出したい!逃げ出したい!
食らいつくした魂の歴史と、灰色の大地。
なんだこれは。なんだこれは。
気持ちが悪い。
このままじゃ、本当におかしくなる。
ああ!頭が痛い!
「ルック、ルック!!どうにかしてくれ!このままじゃ、おかしくなる!」
深夜の暗闇に不釣り合いな叫びを上げて僕はルックにしがみついた。力加減の出来ない手はぎちぎちと細いルックの腕を握り絞める。
きっと他の仲間が今の僕を見たら唖然として目を疑うだろう。これが反乱軍のリーダーなのか、真の紋章に選ばれた人間なのかと。
しかしこれが真の紋章に選ばれた者の苦痛だ。
見苦しいと言われようがなんと言われようが助けて欲しい。
ルックなら、ルックならこれをどうにかする術を知ってる筈だ。
じゃないとこんな平静を保てる訳がない。
「助けてほしいの?」
冷たい瞳なんて構わず僕は首を何度も縦にふった。でもルックは変わらぬ表情で僕を嘲笑ったんだ。
にやりと上がった口元だけが妙にリアルで絶望に突き落とされた気がした。
「無理だよ、それからは逃げられない。残念だったね」
「嘘だ。だって、お前は」
「平気そう?なんでかきみにも分かってる筈だ」
どこまでも人形のような表情のルックは深淵の暗闇を宿した目で僕を笑った。
握りしめていた指を一本一本はずされていく。ああ、いやだ。
「もう死んでいるんだよ」
何が、なんて聞けなかった。
僕も死ぬのか。
このまま、『ソレ』に喰われて死ぬのか。
ルックは口元を歪めた。
「御愁傷様、ぼくらのリーダー」
さようなら、
さようなら