後押しサイン


こいつは人に警戒心がないとかなんとか言う癖して。

お前こそそうじゃないか!と俺は叫びたくなった。

「……カミュー」

風呂から帰ってくれば机に突っ伏して寝ている恋人はそれはもう可愛くて。普段だってそれは可愛いのだが、中々居眠りなんてしないカミューが自室だけで見せてくれる姿が胸にくる。

ああ、同じ男だというのに。どうしてカミューはこうも可愛らしいのだろう。
これが噂に聞く惚れた弱味だとすれば俺は本当に弱ってしまう。

とりあえず起こさないように扉をゆっくり閉じて、規則正しい呼吸をするカミューを覗きこんだ。

見れば白い肌とすっと通った鼻梁。
相変わらず端正な顔立ちに俺としてはため息が出てしまいそうだ。
別にカミューの顔立ちに惚れた訳ではないが今だにこの顔にはどきどきしてしまう。
しかしそれについては何年も前に仕方がないことだと諦めることにしている。
惚れた弱みをなしにしても、今までカミューは俺が出会った中で一番綺麗だ。どきどきしてしまうのは当たり前だろう。

そして落ち着きのない胸のままにカミューの柔らかい髪を撫でる。
太陽のような明るい髪はさらさらと指の間を通り抜け、その度香るカミューの匂いが体を熱くさせた。

俺は寝ているカミューに欲情しているのか。
そう実感すれば背徳感のような…なんだかいけないことをしているような気分だ。
しかしそんな気持ちとは裏腹に体の内にある熱はどんどん膨れ上がっていく。

(キス…してしまいたい)

寝ている相手にキスするなんて騎士道に反するのではないだろうか。不意討ちではないだろうか。なんて。

思考回路は慌ただしく理性をかき集めてるらしい。

無論、欲情している時点で騎士にあるまじき感情だと思うのだが、だが、カミューが愛らしいのがいけないのではないか。

(少しだけ。少し、だけ…)

子供の悪戯をするときのような落ち着かない気持ちで俺はカミューの頬に唇を落とした。滑らかな肌の感触。ああ、カミューカミュー、カミュー。
軽いキスに内心してやったと満足したのも束の間、どんどんどん、とノックの音に肩がはねた。

「マイクロトフ、マイクロトフいるか?」

「あ、ああ!フリック殿か」

いそいそと扉をあければフリック殿が首を傾げて俺を見ていた。「どうかしたか」なんて。聞かないでくれ。俺は急な事態にどうにかしているんだ。顔が爆発しそうに熱い。

「いや、それより私になにか?」

「あ、そうそう。シュウがお前に用があるから来いって」

苦笑いしたフリック殿は頑張れよ、と踵返していった。
俺と言えば恥ずかしさと背徳感から後ろを向くことも出来ず、ただ扉を開けて立ち尽くしている。

…ああ、これはシュウ殿の話が頭に入るだろうか。
ため息一つ、天才軍師の元に足を運んでいく。


その時微かに動いた太陽の髪と、「フリック殿め…」という小さな恨み言は俺には届いていなかった。

あともう少し
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