世界はお前色



『私たち!入れ替わっちゃったみたい!』

無駄に目がきらきらした主人公がそんな台詞を口にしたもんだから。俺の口元は不自然に吊り上がってしまった。

(ばーか。そんな訳あるか)

内心そんな悪態をつきながら次のページを捲る自分も相当な馬鹿だ。

しかし少女漫画ってのはファンシーで面白いよな。やれ主人公が魔法使い、やれ友達は妖精。非現実的のオンパレードだ。
こんな摩訶不思議が日常的にあったら友達の中の半数が魔法使いで、ぶつかった奴ら全員に俺の意識は転々と飛ぶだろう。
なんつー地獄絵図だよオイ。

事故といっても間違いない日常が俺らを待ってるなんて頭が痛い話だ。

なんて。
女子から暇潰しに借りた漫画に突っ込んだのがつい先日のことだった。

俺は入れ替わるやら超能力なんてものを信じてない。
勿論自分が生涯そういう物に関わる可能性も全くないと断言していたし、むしろ関わる奴なんているのかと馬鹿にしてた位だ。


(…これは、神様位は信じろってことなのか)


頭がガンガンする。
憂鬱な顔を上げればクリアな右目は佐久間次郎を移していた。俺の口元はあの時みたいに不自然に吊り上がってしまう。
妙に背筋が寒いのは気のせいだろうか…。

「…俺達、入れ替わったのか?」

あの台詞を目の前の佐久間次郎さんが言って、自称佐久間次郎な俺はゆっくり頷いた。

「お前、誰」

俺が片言な口調で聞くと相手もぎこちない仕草で口を開いた。

「源田、幸次郎だ」

「…………俺も源田しかねーなあって思ってたんだよ」

予想してた通りの返答に涙が出そうだった。
そして予想だにしなかった返答をくらった自称源田はきょとんとした顔をしていた。そしてすぐにいつもの腑抜けた笑顔で「なんだそれ」と言ったのだ。確かになんだそれだ。俺にも分からない。

言えることは非現実ってやつは俺らのすぐ隣に居て、誰にも平等に降りかかるということだ。神様らしくてなんとも泣きそうな権利だがいらねーよばーか。

とりあえずどうしたもんかとぼーと考えてみる。
そして何も考えずに見た先には一面の青空が広がっていた。それはいつも憂鬱そうにしか見えない俺が見てたいたものよりずっと綺麗だ。

「……源田」

「どうした佐久間?」

「お前の見てた世界って綺麗だな」

こんなクリアな空を俺は見たことがないかもしれない。これだけ綺麗な世界を見てる源田だからこんなに純粋なんだ、きっと。

源田はまたきょとんとして明るく笑った。

「佐久間。お前の世界の俺はこんなにも明るく見えてるのか」

「は?」

「だから。お前の片目から見る俺はとても綺麗に見える。凄いな、佐久間は」

俺はいつもならありえない笑顔の佐久間次郎を見て死にたくなった。
なんだこの公開処刑は。


だってお前が、
好きだから




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