図書室の話@ | ナノ
※ほんのりろじいす
※池田がわりと最低です
※伊助もある意味被害者かつ加害者




学校内には漫画やドラマの影響もあって誰もがちょっとした憧れを抱くような場所が何か所かある。典型的な例は授業をさぼって屋上や空き教室で過ごしてみたり、美人な先生がいる保健室だったり。穴場的っていう意味では部活の更衣室だったり、体育倉庫だったりもする。その中でも何番目か、そうだな、日も暮れ始めて誰もいなくなった教室と同じくらいの順位で放課後の人気の少ない図書室も認識されてるんじゃないかと思う。本を借りにくる人は限られているし、テスト前や受験シーズンでなければ自習する人もいない。つまり用事のある人間なんて本当にごく一部で、人目を避けてしたいことをする人間が集まりやすい。もちろん、そんなことないだろって言う声もあるけど、少なくとも俺が当番の時はそう思うって話。そうじゃなけりゃエロ本やエロ漫画をこうも頻繁に見つけたりしないし、当番といいながらも人が来ないのをいいことに貸出カウンターで俺がそれを見ていても何も言われない。むしろそれ以上の猛者がいて、居心地が悪くなりながらもとりあえず今日も入口にほど近い本棚の最下段、並んだ本の奥に隠されたエロ漫画を見ながら、色んなものに知らん顔をしている真っ最中。

最近の成人向け漫画ってすげぇよな。普通だったらありえないだろって場所でヤってるし、ヒロインが現実では見たことないくらい巨乳だったり、ただの淫乱女だったり、変態のドMだったりする。男の夢を詰め込んで抜く目的で作られてるんだろうけど、その割に現実離れしすぎてる上に描写が生温い。でもそういう気分になるにはお手軽でちょうどよかったりするから俺はどっちかっていうと嫌いじゃない。金がもったいないから自分では絶対買わないけどな。むしろ不思議なことに図書委員の当番をしてると嫌というほど読める。毎回思うけど、これを見つけたのが俺だからいいものの、他の人だったら大問題だし最悪学校集会とか開かれるくらいだろ。面倒なことにならなくってよかったな、これを置いていった人。

することもないのでパラパラとカウンターの死角でページを捲る。今日は先輩も後からくるから、俺がこんなことをしてるのがばれないように隠す準備も万全。きっと真面目な先輩が見つけたら青筋立てるくらいじゃ済まないだろうから、そこは抜かりない。

「やっ、ダメ……」

漫画の中では体育倉庫の中で、体操着の女生徒が襲われようとしている。ボールの入った鉄製の大きなカゴや白いマット、ハードルが並ぶ中で背の高い跳び箱に凭れるように追い詰められたヒロインが抵抗もむなしく、部活の先輩らしき男に体操着を脱がされ、上は捲るだけでブラジャーがちょこっと見えている。

「先輩、誰かきたらっ…!」
「大丈夫だよ」

やけに自信に満ちた先輩に女生徒は何も言えなくなって、されるがまま片足を持ち上げられ、露わになったとろとろになっている蜜壺を舐められ、指でかき混ぜられている。

「ゃ、ぁああああっっ」

ちゅくちゅく水音が響く中、恥ずかしながらも大きな声を出すヒロインに先輩が厭らしく満足そうに笑う。巨乳を揺らしながら、背をのけ反らせて感じるヒロインの足は震え、後ろの跳び箱の上に倒れていく。結果的に突き出した形になったそこに先輩は遠慮なく挿入し、中はやめて、と涙ながらに訴えるヒロインに追い打ちをかけるような言葉で責め、悲鳴は嬌声に変わっていき無情にも中に出される。

よくある展開。変わり映えしない内容にひとつ溜息をつきながら、でもいく時のヒロインの顔はエロかったし、胸も柔らかくって気持ちよさそうでそれなりに満足は出来る。けど、抜けるかといえば微妙な所。内心でそう評価を下しながらも、俺は実際に体が疼いてきて仕方がなかった。この漫画と同じような行為がこの図書室の最奥で今現在行われているせいでもある(ちなみに俺が図書室に来たときにはもう始まってた)。本棚や机に隠れて全く見えないけど、布擦れも水音も、腰を打ちつける音も、本人は頑張っているけど殺し切れていない級友の声も聞こえてくるんだからそういう気分にならないほうがおかしい。こういう猛者がいる限り、残念ながら図書室はエロ本、エロ漫画を読むにはうってつけの場所だと思う。

先輩とのセックスに満足していない訳じゃない。淡白でお堅い先輩が俺のことを大事に優しく抱いてくれるんだから、心も体も大満足だ。深爪気味の先輩の手が触れる場所が全部性感帯になったみたいに感じるし、あの立派なもので貫かれた時の快感は何とも言いがたい。だからこそ次々に欲しくなってしまって、俺がそんなことばっかり考えてるのがばれて引かれやしないかって思うと言えなくって、やればやるほど欲求は強くなるばかり。三日前の行為が随分と前に感じるくらい、俺は今すぐにでも先輩が欲しい。強いてあげるなら、もっと強引で乱暴になってもいいから、先輩に俺を求めてもらいたいっていうのが唯一の不満。先輩が俺のことを好きだっていうのは分かってるけど、俺ばっかりっていうのはちょっと切ない。

「三郎次先輩、もうっ…、」
「いけよ、伊助」

まぁ、この二人みたいに至る所で盛るのもどうかと思うけどさ。でも、ちょーっとだけ羨ましくなったりする。もちろん、見られたいって意味ではない。潔癖の気がある久作先輩はこういう場所では絶対に俺を抱かないだろうからな。理性がぶっとぶことがないんじゃないかってくらい我慢強いあの人が時間も場所も気にせず俺を求めてくれたらどんなに嬉しくって気持ちいいんだろう。考えただけで正直な体は反応しそうで、奥から溢れて流れてくる行為の余韻を追い払うように音を立てて漫画を閉じ、先輩に見つからないように俺の通学鞄の一番底につっこんだ。そろそろ久作先輩が来る頃なんだからとっとと身支度済ませてくださいよお二人さん、っていう俺からの親切な合図。

「お時間ですよー」
「ったく空気読めないなぁお前」
「池田先輩にだけは言われたくないっす。図書室をそういう目的で使わないでくれません?いい加減、久作先輩にばれますよ」
「お前もやりたかったらあいつにねだれば?」

まだ息を整えてる最中らしい伊助は見えないが、本棚から顔をだした池田先輩は意地悪くにやにや笑ってて、図書室にエロ本を置いていく犯人はこの人だと確信した。

「あいつにはお前から襲い掛かるくらいがちょうどいいのかもしれねぇけど」

埃っぽくなった服を軽く叩きながら、さっきまでお楽しみ中だった二人が出てくる。あーあ、伊助の顔分かりやすすぎ。これ絶対ばれるな、って思ったらタイミング悪く久作先輩が委員会の先生に押し付けられた仕事を持ってご登場。

「よ、遅かったな久作」
「は?お前らなんで…、っておい三郎次、図書室でするなって言っただろうが!」
「まぁまぁ。お前もたまには色んなことしないとマンネリ化するぞ?」

すみません。まだ赤い伊助の謝罪に、お前は謝らなくていいって久作先輩が優しく答えているのを横目に、間一髪だったっすね、と嫌味を込めて池田先輩にだけ伝わるように笑う。ばれるかばれないかのスリルは確かに刺激的だけど、こうも頻繁に図書室を利用されるのは俺としてもたまったもんじゃない。というか、むしろ俺は毎回目撃者な訳だし、知ってる人同士の濡れ場は見たくない。ってか今更だけど伊助はそれでいいのか?普通嫌がるもんだろ、確信犯の池田先輩はともかく。まぁ池田先輩と付き合うようになって色々流されやすくなったし、伊助本人はべた惚れだから問題はないのかもしれないけどさ。俺としては行き過ぎた性癖に人を巻き込むな、って注意してほしいところではある。

「俺からきり丸にありがたいアドバイスをしてやろう」
「いりません」

アドバイスって言ってもろくでもないに決まってる。どうでもいい遣り取りのおかげで体の熱は引いたし、俺は一刻も早く久作先輩と二人きりになりたい。いいから聞けよ、と胡散臭くてしつこい池田先輩を流そうとした時、

「知ってたか?お前があいつを食うっていう手もあるんだぜ?」

耳元で悪魔のささやきが聞こえた気がした。

「三郎次、お前反省してねぇだろ」
「してるしてる。これからしばらく図書室は使わないって」
「はいはい、図書室『は』ね」
「それより久作、俺達のことより自分のこと気にしたほうがいいかもしれねぇぞ」
「どういう意味だよ?」
「それは内緒。伊助、帰るぞ。んじゃまたな、きり丸」

最悪だ、意地が悪いのはこの先輩の専売特許じゃないはずなのに。伊助には見せないような含みのある顔で機嫌よく去っていきやがって。面白がってんじゃねぇぞ全く。せっかく引いた熱は前よりも熱くなって戻ってきた。

俺は久作先輩に抱かれることに何の不満も文句もない。挿入されるのは最初はそりゃ痛みもあったけど今はそれ以上に気持ちがいい。神経が集まってる場所なんだから当然だ。もしそれを久作先輩が体験したとしたら。あの理性の塊のような久作先輩が俺の鞄に眠るエロ漫画のヒロインみたいに、本棚に隠れて池田先輩とやってた伊助みたいに善がったら。俺を求めるようになったら。ごくり、生々しく俺の喉が鳴る。抱かれるのは嫌いじゃない。でも俺だって男なんだから抱きたいっていう欲もある。もし。もし、俺が久作先輩を抱いたとしたら。

「きり丸、さっきから黙ってどうした?」
「いえ、何でも」
「三郎次に何か言われたか?」

言われた、ってよりは唆されたに近い。すみません久作先輩。せっかく心配してくれてるのに、今の俺の頭の中はどうやったら先輩を抱けるかってことしかないです。俺がこんな欲求を抱いてることを知らない久作先輩はすっげぇ無防備で隙だらけで、俺の理性がぶっとぶのももはや時間の問題だろう。久作先輩ごめんなさい。文句は池田先輩にどうぞ。でも絶対満足させますから安心して下さいね。言い訳染みたことを連ねながら、俺は先輩を頂くための計算を始めた。