基山と風丸 | ナノ


ヒロトはいつも、何らかの花の話をした。かれは花に詳しかった。可愛らしいパンジーに始まり、シクラメン・アヤメ・ラン。あまり耳にしないようなデンドロビウム。菊や牡丹など、本当に様々な種類の花を網羅していた。なかでもヒロトは睡蓮がいっとうすきだという。俺は花に興味がないから適当な相槌しか返さない。それでもヒロトは話を続ける。
朝顔より夕顔の方が美しいのだそうだ、ヒロト曰く。朝顔はありふれすぎていて、夕顔は夜の中でひっそりと花を開くから魅力的だとか言ってる。しかし俺にはどちらも変わらず同じに見えるのだ。一つ舌を打って、話を聞いているフリをする。もうお前なんて花に喰われてしまえばいい。食虫植物の甘い毒にかかって消化されてしまえ。クチナシの強い香りが漂ってきた気がした。多分ヒロトが夏の花の話をしているからだ。

「きっと僕は呪われているんだね」
「クチナシに?」
「そうかも」

近所にクチナシの木があったんだ、と昔を懐かしむように語りだす。思い出話をする時のヒロトの目は一段と煌めいていた。過去からの光を映したひとみが翡翠のように輝きをはなつ。ヒロトは今よりも未来よりも過去を大事に、大切にして生きているのだ、きっと。クチナシの香りが鼻腔の奥へと染み付いて離れてくれない。なんとかそのにおいを忘れようと頭をふる。俺は花に毒されているのだと思う。毒をもっているのはヒロトだ。
アネモネの花と花瓶をもらった。もちろんヒロトから。大切にしてね、と言うだけで他には何もなかった。どうせ枯れてしまうんだろう、花なんて。そう思っていたら本当に枯れた、すぐに。ほんの三日程でその花は命を終えた。

「仕方ないさ。だってそういうものだろ」
「一生のうちの一番綺麗な姿を風丸くんに見てもらえて、きっと幸せだったんじゃないかな」
「たった一瞬さ、そんなの」
「だからこそだよ」

俺は、ヒロトが何故そんなに執念になれるのかが不思議でたまらなかった。枯れた花を投げ付けても眉一つ動かさない。呼吸さえしているのか疑わしかった。実は葉緑体でももっていて、二酸化炭素から酸素を作り出していたりするのか。まさか。でも強ち正しいかもしれない。緑色の瞳、そしてあの肌の下には血管じゃなく維管束が通っていて…、そうじゃないとしたら花に飲み込まれただけの人間だ。次は枯れにくい花を持ってくるよ、とヒロトは楽しげだ。マリーゴールドを一つ手にもっていた。ヒロトとその花は不必要な程に似合っている。かれは花を持ってくる度に俺の心臓あたりに種を蒔いていく。その芽を摘むことは出来なくて、それらが枯れた頃にかれがそうっと拐っていくのだろう。どうか次は綺麗に花開いたガーベラを見せてほしい。



フラワリング
基山と風丸
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -