米と英 | ナノ
雨が振っている。どんよりとした空は誰かさんの不機嫌な顔を彷彿とさせた。今頃、そんな顔をしているのだろうか。瞼の裏にイギリスの表情を一つ一つ思い浮かべては消した。彼はいつも怒ってばかりだ。どうしてそんなに怒っているのかを問うたら、更に激情した。未だに理由は聞けていない。分かるのは、もしかしたら自分が原因なのかもしれない、ということだけだ。まあ、どうでもいい。頭の片隅に放り投げた。そんなに悩むことじゃないはずだ。
イヤな空気が街を包んでいるのは、何も雨の所為だけじゃない。排気ガスで汚れた空気や、人の溜め息まで、何もかも混じりあった空気は常に息苦しかった。イギリスが外出を毛嫌いするのも頷ける。しかし、こんな外の世界が嫌いじゃなかった。汚れているくらいが丁度いいんだと思う。それは俺が浅ましい考えを持っているからだ。イギリスは綺麗で純粋だから生きにくいのだろう。ぼんやりと思った。そんなイギリスは晴れた日がすきらしい。コーヒーを片手に、そしてもう片方には傘を持ち、陰鬱とした街を歩く。どうしたって晴れる様子はない。湿気は嫌いだ。じめじめして一層暗い気分にさせる。それに、洗濯物もなかなか乾かないし、なんて。

「…遅い」
「ごめんごめん、でもこれでも急いだつもりだったんだぞ」
「まあ、許してやる」

休日の割に人気の少ない公園の、噴水の前でイギリスは俺を待っていた。暇そうに傘をくるくると回す仕草はどう見たって子どものするそれだ。苛々しているのか、やはり不機嫌そうな顔をしている。すっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干して、なんとなしに歩き始めた。予定も行き先も決めていない。ただ二人で一緒にいられればそれだけで有意義な休日になる。イギリスに行きたい所を尋ねると、やはり、どこでもいいと返ってきた。俺もだ。
街をぶらぶらと歩いている間に俺とイギリスは他愛のない話ばかりしていた。最近は忙しいなとか、この前見た映画は面白かったとか。イギリスは顔を曇らせたままだった。時々口角を上げるけれど、イギリスは愛想笑いが下手くそだから俺はすぐに分かってしまう。愛想の無いイギリスはすきだ。へらへらと意味も無く笑うよりも怒っている方が断然素敵だ。だからたまにわざとイギリスを怒らせるようなことをする。今日遅刻をしたのも故意にやったのだ。

「そういえば、近所にキミがすきそうなお店が出来た」
「今度連れていけ」

きっとイギリスは分かってる。どうしてわざわざ雨の日に出掛けたのか。自分のコーヒーだけ買って、キミの分の紅茶を買ってこなかったのか。でも分かってて何も言わないって、キミも馬鹿だよね。雨が止むのは大分先になると思うけど、やっぱり何も言わないことにした。



雨ふらし
APH 米と英
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -