豪炎寺と鬼道 | ナノ




自分の中の自分の中の更にまた自分の中の何かが、俺に恐ろしい言葉を投げかけてくる。止めろ、と何度も強く思うのに言うことを聞かない。自分自身のはずなのに。そうしてそれはいつも辛辣で凶暴で冷徹な言葉を俺に向けて言い放つのだ。
(お前なんか、)


朝、豪炎寺が隣にいないときは必ず強い虚無感が訪れる。しばらく何も考えないで豪炎寺がいたはずの空間をただぼんやりと眺めてしまう。微睡みの中でやんわりと頭を撫でた感触を憶えている。きっと寝ている俺を起こさないようにそっとベッドを出ていったんだろう。豪炎寺のこういった気づかいや些細な言動で俺の心は一喜一憂する。単純なのだろう、俺もあいつも。もそもそとベッドから這い出てリビングに向かった。

「豪炎寺、」
「おはよう、鬼道」
「なんで起こしてくれないんだ。お陰で頭が痛い」
「お前があまりにも気持ち良さそうに寝てるもんだから、な。許せ」

そう言って微笑むのはずるい、と思う。責めるに責められない。時計を見ると朝と昼の間くらいのぱっとしない時間だった。この時間帯に起きてしまうと何をすればいいのか分からない。まだ少しぼんやりする頭に手をやりながら、一日をどのように過ごそうかと考える。
出来ることなら何もしたくなかった。ただ豪炎寺と一緒にいられればそれだけでいいと思う。だけどそれだけでは怖いのだ。本当は俺の一方的な自己満足なんじゃないかと余計なことを考えてしまう。そんなことないとは分かっているつもりなのに。
(お前なんか、)
(必要ないいらない意味ないただの道具作品駒人形)
不安の波が一気に押し寄せてきて、もう何も考えられない。なあ豪炎寺、豪炎寺、どうにか俺を助けてくれないか。ただ抱き締めてくれればいい。その温かさに触れたらそれだけで満たされるから。

「…豪炎寺」
「ん?」
「本当は、起きたときに隣にお前がいないのが嫌なんだ。豪炎寺がいなくなるなんて、嫌だ」
「うん」
「どこにも行くな」
「うん」

ぬくもりに包まれながら、鼓動が早まるのを感じた。俺も豪炎寺も。マイナスの感情を全部どこかへ投げ捨ててくれた気がする。よかった。一人で迎える空虚な朝は終わったのだ。




うん、そんなのいやだよ
豪炎寺と鬼道
(100617)
――――――
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