小説

土方と原田 1

青が空一面に広がる完全な晴天なのに、吹く風は冷たく、道端の水溜まりは凍り、霜が生えていた。
真選組屯所の縁側では、私服の原田が寒そうに肩をすぼませながら歩いていた。ズボンのポケットに両手を突っ込み、若干前屈みになりながら、目的地である副長室に向かう。脇には長方形の箱を挟んでいた。副長室に着くと、襖をノックし、中からの返事を待たずに開ける。

「ん」

原田は部屋に入るなり、新聞を読んでいた土方に向かって、挟んでいた箱を突き出した。箱はキレイにラッピングされており赤いリボンが掛かっている。所謂、典型的なプレゼントの箱だ。
土方は新聞を広げたまま、目の前の箱を凝視していた。開けっ放しにされた襖から吹き込む寒風で、新聞紙の角がパタパタと揺れる。

「お前……とうとう」
「何がとうとうだ!俺からじゃねぇよ!何処ぞの女からだ!!」

原田は箱を土方に投げつける。ぐしゃりと潰れた新聞紙が土方の手から離れた。
普段の土方なら躊躇なく怒りを爆発させるところだが、何故か鬼は現れず、代わりに大きな溜め息が生まれた。

「またかよ」
「そりゃこっちのセリフだ。なんで巷の女共は俺を使うんだ。真選組副長直属の配達人か俺は」

原田はその場に座り込み、胡座の上で頬杖をつく。土方は「知るか」と言い放ち、ぐしゃぐしゃになった新聞紙を畳んだ。

「断ればいいだろ。こっちもゴミが減って万々歳だ」
「乙女心がこもった贈り物をゴミとか言いやがる奴の何処が良いってんだぁぁぁ!!顔か?!やっぱ顔なのか?!」

理解できないと言わんばかりにハゲ頭を抱え、天井を仰ぎながら声を大にして叫ぶ。うるさそうに見てくる土方を尻目に、原田は話を続けた。

「つっても一度聞いた事あんのよ、何処が良いんだって。したらさ」

そう言うと突如、少女漫画に出てくる女の子のように目を輝かせ始めた。組んだ両手を顔の横に持っていき、首を傾げながら精一杯の裏声をだす。

「世間じゃ鬼とか言われてるけど、きっと恋人の私と一緒にいる時だけ優しい土方さんになるの。私しか知らない土方さんって素敵じゃない?」

土方の白い目が向けられる中、原田は再び真顔に戻る。

「だってさ。そうなわけ?」
「の前に、なんでその女、俺の女気取りなんだ」

呆れた言葉と共に紫煙が吐き出される。灰皿に短くなった煙草を擦り潰し、畳んだ新聞紙の上に渡されたプレゼントを置いた。

「まぁ、あながち間違っちゃあいねぇなぁ……厳しくする必要ねぇし。ぶっちゃけそっちの方が股開く」
「顔が良いからんな事言えんだなぁ……」

原田はがくりと頭を垂れ、青白い火の玉をハゲ頭の周りに浮かべる。土方は立ち上がり、掛けていた隊服の上着を取った。

「十番隊は非番だったか」
「おう。アイツ等が女といちゃこらしてる中、隊長は独りで女とは何か考えんだよ」

アイツ等とは十番隊の隊員達の事だ。土方は上着の袖に腕を通しながら、ふてくされている原田を見る。

「女ほしいんなら、こういう日に自分磨けりゃ良いんじゃねぇか」
「あぁ?頭磨けってか?これでも日々の手入れは欠かした事ねぇぞ」
「いや、そうじゃなくて」

自慢のハゲ頭を撫でる原田に向かって、土方は溜め息を吐く。

「確かに外見も大事だが……こう、内面磨いて人間的に魅力のあるヤツになりゃあ良いんだ。人間力があるヤツは誰から見ても魅力的に感じるぜ」

しかし、原田は同意しかねると言った感じに首を傾げる。

「そうは言っても、まず恋愛対象に見られるには外見だべ?」
「本当の良い女っつーのは、中身を見抜いてくんだよ」

土方はそう言うと、新しく出した煙草を口に加え、マヨライターで火をつけた。何でもない普通の動作だが、端正な顔立ちの土方がすると、男の原田から見ても様になっている。

「そういうもんかぁ?」

男に限らず女でも、結局は見た目じゃあないのか。原田は土方の言葉がいまいち信じられなかった。

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