小説 2

三色団子でいいよね



――また一人減ったか、


眉を結った男は一枚の紙を手に盛大な溜め息を吐いた。

男の名は近藤勲。まだ20代前半と若いが、道場の館長をしている。剣の腕は確かで、人柄も良く、門人達から親しまれていた。
だが、それでも門下生は日に日に減っていく。近藤にはその原因が分かっていた。

「…おや、またですか。近藤先生」

髪を後ろでひとつにまとめた男が、眉尻を下げる近藤の元へ歩み寄ってきた。

「あぁ、源さん。また一場道場の引き抜きだ。確かにあちらの方がでかいし待遇もいいからな。仕方ないか…」
「近藤先生は人が良すぎる。一度一場殿に止めてくれるよう申し出たらよろしいのでは?」

腕を組み眉間にしわを寄せる井上源二郎は先代の友人だ。年は三十を越え近藤にとって大先輩なのだが、道場主となった自分を‘先生’と呼ぶ。

「しかし、一場殿も未来の侍に良かれと思いやっていることだ。確かにこんなボロ道場にいるよりも、名のある道場に行った方が剣の才も存分に発揮できる」
「…そのうち沖田も持ってかれますぞ」
「う、うーん…それは…」

井上が言い放った言葉に近藤は唸りながら頭を抱え机に伏した。


「こ、こうなったら…」
「こうなったら?」
「こっちは三時のおやつ付きだ!!」
「…」

勢いよく上体を起こしたと同時に叫んだ近藤の案に井上は閉口する。
表口から元気な子供の声と女性の声が聞こえてきた。




戻る

- ナノ -