小説

- 七夕の前日 -

――明日は七夕。

江戸の七夕は前日六日の晩から準備を始め七日の夜明けには各家の屋根上に空に向かって一本の竹が高々と立つ。その竹には願いをこめた色とりどりの短冊や色紙で作られた西瓜などが飾られ一つ一つ個性ある竹が江戸の空を覆い尽くすのだ。

その光景は実に見事なもので、この時ばかりは天人が建てたターミナルもちっぽけなものに見えた。


勿論、真選組屯所でもこの行事はかかせない。

「永倉、何書いた?」

永倉は手に持っていた青色の短冊を上から取られ「あ」と声を上げる。振り返ると藤堂が「何々…」と少し首を横に傾げ短冊を読んだ。

「背が伸びますように……いやぁ…いくら何でも成長ホルモンを左右する事は」
「織り姫に会ってくるか?」

暗闇の中で白刃の閃きが鋭く光る。

「いや…彦星に怒られるので遠慮しておきます」

藤堂はお星様になる事を丁重にお断りをし、短冊を持ち主に返した。永倉は不機嫌そうに口を曲げながらその短冊を笹に飾る。

「凹助は今年も書いていないのか?」
「んー…神頼みって何かなぁ……ん?」

ふと向こうの方から陽気な歌声なのか喚き声なのか分からない声が聞こえ、二人はそちらの方を見遣る。ほのかな灯りでも分かるぐらいに真っ赤な顔をした原田がフラフラ千鳥足で近付いてきた。

「右之、大丈夫?」

原田の傍にもう一人いた。斉藤がタコのような顔を覗き込みながら一緒に歩いてくる。むわっと酒の臭いが初夏の風と共に漂ってきて二人は顔をしかめた。

「うわぁ…どんぐらい呑んできたんだ?お前」

永倉が鼻を摘みながら後退りをする。タコ化した原田はニヤリと笑い指を五本立てた。

「五本も開けたのかよ!」
「なぁぁにいぃーてんあ?ごじゅっぽんよ!」
「ご、ごじゅ…!!」

傍で聞いていた藤堂と斉藤も思わず絶句した。

今日は原田の誕生日だ。確か十番隊隊員と山崎で誕生日祝いで呑みに行ってくると聞いていたので一人で五十本というわけではないだろう。それでも五十本というのは多すぎだ。どれだけ飲み屋に貢献してきたのか。

「ぽいんとカードろくまいもたまったぜぇぇ〜またいっしょに行こうなぁ!」

引きに引いている三人を余所に原田は上機嫌で六枚のカードを見せる。はんこ満タンのカードでいくらか値引いてくれるようだ。

「おぉーい!!そっちは出来たかぁ!!そろそろ上にあげるぞぉ!!」

近藤の声だ。向こうでは近藤や沖田、土方達が飾りをつけている。

「上げるかぁ。んじゃ俺が」
「俺があげてやらぁ!!!!」

藤堂の言葉を遮り原田が大声を張り上げついでに拳を振り上げる。

「はぁぁ??!!」

永倉と藤堂が原田に負けないぐらいの大声を出し、その自信満々な発言に驚愕した。

「止めた方が良いよ!右之!」

斉藤も慌てて止める。しかし原田は「だいじょーぶだいじょーぶ」とカッ!カッ!カッ!と笑い竹を軽々と持ち上げた。ガサリと笹が揺れ、数枚緑の葉が地面に落ちる。

「いやいや…右之助君、その竹は屋根上で良いんだからね?天の川まで届けなくて良いんだからね?」

竹を担ぎながらフラフラ歩いていく原田の後を藤堂がついて行った。どちらかというと行き先は天の川ではなく三途の川である。

案の定、途中顔面から竹と共に地面に激突し藤堂に「ほら見ろ!!」と怒鳴られていた。

「…あのままだと屋根上に着くまでに飾りが全て取れちまう」

自分の大切な短冊まで取れたら大変だ、永倉も急いで二人の元へ駆け寄る。斉藤もやれやれと言った感じで息を吐き後を追った。



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日記で公開した駄文です。
結局未修正のまま…

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