3月14日
2015/03/13 22:56

陽気は一進一退をくり返しつつも確かに草木や鳥、見るものそこらじゅうが待ちに待った春を喜び出していた、とはいえ居座る冬の空気に肌はきゅ、と縮こまってしまうそんなある日。

長屋の傍にある井戸の周りは休日前の晴れとあって数人が手をほんのり赤く染めながらじゃぶじゃぶと洗濯に勤しんでいた。
が、その一角の何やら不穏なやりとりが見るも早く喧騒へと変わっる。

「ふざけんなてめぇ!!!」
「こっちの台詞だバカタレ!!!」
「伊作、何故そんなに褌が多いのだ」
「あはは、まあこっちは包帯用と…後は聞かないで仙蔵…」
「もそ…まだ汚れが落ちてな」
「細かい事は気にするな!」

…ただしその一角だけの話で、その他の面々はまるで呑気にじゃぶじゃぶじゃぶと続けている。

「熨斗付けて返してやるわ!!!」
「こっちこそこんなもん願い下げだ!!!」
喧騒の元の二人は手にしていた洗濯物を相手に投げつけると、電光石火の勢いで残りの洗濯物を洗い、干し終わるなりたらいをひっつかみ鼻息荒く自室へと帰っていった。

「………ねえあの二人相手の褌持っていったよ…?」
「あれで仲がバレてないと思っているとは呆れを通り越して感心するな」
「…小平太…水が跳ねてかかってくる…」
「おお!すまんすまん!」
ぽかぽかとした日差しは冷たい空気を幾分か温めはじめたようで、平和な時間をより穏やかに感じさせてくれるのだった。



一方それぞれの自室に戻った二人。
持って帰った褌をどう処分してやろうかとぎりぎり歯を鳴らしながら考えていた。

数刻前、相手の同室への態度で喧嘩をしたのだ。
要は嫉妬である。
一生落とし穴の中でよろしくしてろとか、言う事なんでも聞いて永遠に尻に敷かれてろとか言いあってそれが尾を引いていた矢先に先日送り合った品を洗っている姿が目に付き、あいつにやれば良かったんじゃねえの、とぼそり呟いたのはどちらだったか。

屑入れに入れるのもまだ濡れているし、同室に見つかるのもまずい…相手の名前が書いてあるのを見ながら考える。

他の面々にバレないようにと相手の字を模して書いた名前。
区別が付くように墨を垂らしたような小さな点を付けた。
その時は真剣に本気を出して書いたのだ。

(折角恋仲らしい事ができたと思ったらこれだ )

(やっぱり俺達にそんな関係無理だったんだろうか)

(折角あいつが使ってくれたのにな…)


はてさて、その時なんの神の悪戯かそれとも深層心理という物か、ふと二人の頭に浮かんだ事があった。


((これ…あいつが履いてたんだよな……それを俺が履いたら……………そして………



…………っ!!!!!))





















突然同時に二箇所のふすまがぱあんと開き、
「「こんなもんいるかああああああ!!!!!!!!」」
と相手を確認するなり渾身の力で投げつけた濡れた褌は、見事双方の耳まで真っ赤な顔にべちゃりっと命中したのであった。





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'14/3/14
ふんどし返しの日









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