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おれは男で菜緒は女。
「はい景吾くん、右手出して」
「ん」
菜緒はおれの手を取ると、ぱちんぱちんと爪を切る。
あんまり好きじゃなかった爪切りも最近は全然何ともない。(さすがおれさま!)
おれの爪を切る菜緒の手を見る。
白くて長いゆび。
おれと違って少しだけ長い爪。
「なあ菜緒」
「なーに?」
菜緒は爪を切りながら答える。
「菜緒は手、大きいな」
ぱちん・と乾いた音がして顔を上げたら、菜緒は驚いた顔をしていた。
「そう、かなぁ?」
あんまり嬉しくないなあ、と言って菜緒は自分の手をまじまじと見た。おれも自分の手を見る。
短い指の先には、きれいに切られた爪。
菜緒の手みたいに柔らかい手。
(…男なのに)
父さんの手はもっと大きかった。
父さんの指はもっと長かった。
かたくて、厚くて、
(おれと全然ちがう)
父さんは大人の男だからおれより大きいのは当たり前。でも菜緒は女、なのに。
いつの間にかうつ向いていたおれの手を取って菜緒は自分の手と合わせた。
「こんなに曲がる」
「………」
やっぱり菜緒の手の方が大きくて、指をいっぱい曲げられる。おれはなんだか悔しくなって無理矢理菜緒の指の先と合わせた。
菜緒はくすくす笑って、ぽつりと言った。
「今は私の方が大きいけど、もう少ししたら景吾くんの方が大きくなるんだろうね」
菜緒は笑った。
「…菜緒?」
「景吾くんずーっとこのままでいればいいのに」
菜緒がとんでもない事言うから、おれは慌てて「だめに決まってるだろ!」と言った。
それでも菜緒は笑ってたけど、おれにはそれが寂しそうに見えたんだ。
【君を守れる手になりたいだけなのに】