まずは名前を付けてあげましょう
とりあえず、一服。
といっても私はタバコは吸わないけどね。正式に私のペットとして飼われる事が決まったオレンジ色の少年。いかがわしい響きを含んではいるがそういう関係なんかじゃ勿論ない。
純粋な「飼い主とペット」の関係だ。
そんな彼が煎れてくれたコーヒーを飲みつつ私達は毛長のカーペットが敷かれた床に座った。
「さて、まずは名前から聞こうか」
「俺様は菜緒ちゃんが付けてくれた名前でいいよ。ペットだし」
「そういうわけにもいかないでしょ。私ネーミングセンス皆無だし。ゴンベエとか付けるわよ」
「なにそれ『名無しの権兵衛』からきてんの?確かにそれは勘弁」
あっは、と笑ってゴンベエ(仮)は結んでいたゴムをほどいた。
「猿飛佐助。これが俺様の名前」
ど?かっこいい?と小首をかしげる。
私からすれば可愛いのだが。や、仕草がね。
「ふむ、じゃあサル」
「えっ!?待って待って待って!それ愛称!?違うよね!?お願いだから違うって言って!」
「だって猿飛なんでしょ」
「そうだけど、せっかく菜緒ちゃんに呼んでもらえるんだから佐助がいい」
「私が付けた名前でいいって言ったじゃん」
ニヤリと笑うと潤んだ瞳でうそだろぉー…と肩を落とした。やばい、なんか楽しい。
「そういえばなんで私の名前知ってんの」
「昨日菜緒ちゃんが自分で言ったー」
まだ立ち直れないのかカーペットの毛をいじりながら答える。ていうか既に名乗ってたのか。覚えてないぞ。
相手の名前も聞かず自分のだけというのもまた無礼な話だ。
「じゃ、改めて自己紹介しよっか?」
「大丈夫。昨日菜緒ちゃんを家に連れ帰ってきた時に表札見たから」
「へ?」
「あれ?これも覚えてない?菜緒ちゃん、俺を飼うって決めてからそのまま寝ちゃったんだよ」
「うっそぉ…」
「ほんとほんと。俺菜緒ちゃんおぶって、寝ぼけてあやふやな道案内で家まで来たもん」
嘘でしょ、ほんと信じらんない。飼うと決めたその瞬間から身を預けるってどうよ私。女として人として、色々考え直さなきゃいけないわ。
「俺だったから良かったものの、他の男の前であんなに無防備にしちゃ危ないよ」
「以後気を付けます…」
「ん、わかればよし」
いいこいいことばかりに頭を撫でられる。あれ、なんか立場逆転してない?私もなに素直に撫でられてんだか。しかも、年下に。
「…ま、これからよろしくね、佐助」
「うん、菜緒ちゃん」
名前を呼ぶと、ぱ・と表情が輝く。耳や尻尾がない代わりにとても感情表現が素直で豊かみたい。
よろしく、と言って近づいてきた顔にとりあえずデコピンは飛ばしておいたけどね。
まずは名前を付けてあげましょう