男のロマンですから
「あっ」
聞こえた声に振り返ってみれば、ほとんど畳み終えた洗濯物の傍らに座ったご主人様の不機嫌そうな顔が目に入る。
「どしたの」
「穴、空いてたの忘れてた」
ほらあ、と見せてくれたのは昨日彼女が履いていたストッキング。爪が伸びていたのか爪先から足の裏にかけて薄く裂けている。まあ所謂伝線というやつだ。
「あらら〜もう替えはないの?」
「替えはあるんだけど、もう履けないやつを洗濯しちゃったのが悔しいのよ」
くう…!と唸ってストッキングを握り締める菜緒ちゃん。変なところで悔しがるんだなあと傍目からでは穴の有無さえ分からないストッキングを見て小さく笑った。
「使用済みストッキングの有効活用ってなにかないかな…」
「使用済みって卑猥な響きがあるねえ」
あっは、とピンクジョークをこぼせば綺麗な笑顔を向けてストッキングの上部を広げる菜緒ちゃん。ひやりとしたものを背中に感じて「いやぁん」と彼女の細い体を正面から抱き締めつつ、そっと手を下ろした。
そんなの顔に被されちゃせっかくの男前が台無しじゃないか。
女性特有のふにふにした柔らかさを満喫しながら腕の中の人を見る。思案顔でストッキングをういんういんと伸ばす菜緒ちゃん。
面白くない。彼女の背後に手を伸ばしてブラヒモを引っ張ってやれば、パチンと小気味良い音がして「たっ!」と声が漏れた。ギロリと睨まれたけど気にしない。ちぇっ、外れるまではいかなかったか。
「あっ!俺様いい事思いついた!」
「は?」
「それの有効活用!」
きっとこの時の俺様はとてもいい笑顔だったに違いない。
「なんでわざわざ履かなきゃいけないのよ…」
「いいからいいから〜」
ソファに腰掛けてブチブチ言いながらストッキングを身につける菜緒ちゃん。俺様はソファの後ろで待機中。履く姿も是非見たいと男らしく申し出てみたが敢え無く却下された。いいじゃんね、別に。
「履けたけど…」
部屋着のショートパンツから伸びるホワイトベージュの薄い膜に被われた両脚。上下の服がラフな部屋着だから多少の違和感は拭えない。菜緒ちゃんもそう感じているのか居心地が悪そうだ。
そんな菜緒ちゃんに対して俺様の笑みは深まるばかり。そっと彼女の手を引けば素直に応じる。抵抗がないのを良いことに流れる動作でソファへ押し倒せば、大きく目を見開いて跨る俺を見上げる菜緒ちゃん。
にこ、と微笑んでから彼女の脚を被うストッキングを一気に引き裂いた。
ビリビリビリ!薄い膜は大した力を必要とせずに裂け、残骸が菜緒ちゃんの脚に絡みつく。
「さ、佐助!?」
「しっ」
状況が飲み込めない。そう告げようとして開かれた口を自分の口で塞ぐ。もご、とくぐもった声が漏れたがお構いなしに舌で口内を蹂躙していく。息継ぎに時折口を離すぐらいで俺は夢中で彼女の唇を貪った。
腰に置いていた手をゆっくりと下降させる。無残なストッキングはむちりとした太ももに食い込み、無意識に唾を嚥下した。
それはまるで捕食者の前に出された無抵抗な餌。糸に捉えられた蝶を見た時の蜘蛛の気持ちは今の俺と同じなのだろうか。
「佐助…」
微かな怯えの色を感じ、薄く染まった頬を包んで今度はゆっくりと口付けた。唇を唇でなぞれはくすぐったそうに身を捩る。
そして露わになった耳へそっと囁いた。
「ごーかんごっこ」
「…は……?」
「どきどき、した?」
わなわな震える唇に怒りも含まれているだろうけど。
「菜緒ちゃんも満更じゃなかったでしょ」
「!」
イタズラ成功とばかりに笑ってみせれば菜緒ちゃんの顔が瞬時に茹で上がる。
それくらいの事が見分けられなくて、貴女しか見えてないなんて口を叩くはずないじゃないか。
熟れた唇にもう一度口付けを落として、今度は優しく背中のホックを外した。
怯えた表情、ストッキング、全て美味しくいただきました。