ちらっと覗いて、ぱっと隠れる。またちらちらっと覗いて、じぃっと見つめる。
ドアの隙間から注がれる視線。だけど私が振り向こうとしたら大きな瞳はすぐさま隠れてしまう。あらら、ふさふさの尻尾が見えちゃってるよ佐助くん。
でも、そろそろ私も我慢出来なくなってきた。視線だけの追いかけっこは時間が経つにつれて人肌恋しくなってくるものなのだよ。
「さて、と」
ソファに浅く腰掛けていた体勢から深く座り直して心持ち左側へ寄った。空いた右側をぽんぽんと叩いてみれば隠れきれなかった尻尾がぴくんと反応する。
「あーあ、誰かを抱っこしたいなあー。ふわふわの可愛い子を抱っこしたいなあー」
反応した尻尾がひゅうと隠れて、おずおずと佐助がドアに手を掛けて顔を覗かせる。行こうかな、行きたいな、でも恥ずかしいな、そんな感情が入り混じっているんだろう。
恥ずかしがってもじもじする佐助は可愛い。それはもうべらっぼうに可愛い。…でもね。
「誰かいないかなあー。ゆきくんを抱っこしに行こうかなあー」
「ッ!?おれさま!菜緒ちゃ、おれさま!」
とててててー!と慌てて駆け寄ってきてそのまま膝にしがみつく。顔を両膝の間に押し付けて、やあ…やらあ…と呟く佐助。すっかりしょんぼりしてしまったお耳を指先でくすぐって、両脇に手を差し込む。
条件反射なのだろう。佐助は迷わず腕を伸ばして私の首に回した。
「どうしてすぐ来てくれなかったの?」
肩におでこを擦りつける仔狐に訊ねれば、んん…と唸ってちらりとこちらを見た。
「ぎゅう、したいけど菜緒ちゃんみたらぎゅうってなってね、それでね、おれさまかくれちゃった」
「うん」
「でもね、菜緒ちゃんがだんなをだっこするっていうからダメー!っていったんだよ」
「そっかあ」
「だめでしょ、菜緒ちゃんはおれさまをだっこしなきゃだめでしょ」
「うん、そうだね。ごめんね」
「…ね、菜緒ちゃんはだれをいちばんだっこしたかったの?」
肩に乗せていた顔を上げ、恐る恐る、しかし少しの期待を抱いた瞳が私を見つめる。首に回された手が襟首をきゅっと掴むのを感じた。
そんなの答えは決まってる。佐助だって分かってる。でも君がそれを望むなら私はいくらでも君にあげるよ。
「いつだって佐助を一番抱っこしたいわ」
襟首を掴んでいた手が頬に添えられて、柔らかい手のひらがふにふにと頬を押す。
膝に乗った佐助の自慢のふかふか尻尾は私の脚をゆるりゆるりと撫でている。ふわふわふかふかで、抱き締めればお日様と幼子特有の甘い香りが広がる尻尾。
お返しだと私もまるいほっぺをふにふにと押せば、いつも以上にとろけた、嬉しそうに微笑む佐助がいた。
くちにして、ことばにして、いくらでもあげるよ
きみがいちばんだいすき!
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