雲のように不確かではなく、あめ玉みたいに硬くもない。彼女を喩えるならば、
「わたあめ」
「へ?」
我が家の愛猫と遊んでいた菜緒が振り返る。喉をゴロゴロ鳴らす愛猫、ゆきむらと一緒にきょとんとこちらを見るものだからつい笑ってしまった。
「ゆきむら」という名前は真田の旦那が付けた名前だ。俺様が拾ってきた猫に自分の名前を付けるか普通…と呆れたものだが猫自身も気に入ったようだし、渋々呼んでいるうちに慣れてしまった。今ではなんの違和感なく呼んでいるのだから慣れというものは恐ろしい。
つい思い出し笑いを零してしまえば、なあに?と訊ねる菜緒に何でもないよと首を振る。チッチッと緩く曲げた指先を軽く振れば、にゃおんとゆきむらが釣れた。
「あっ」
「独り占めするからだよー」
菜緒とゆきむらのじゃれ合う様子はとても可愛らしいけれど、お互いを独り占めしすぎ。笑顔を浮かべてる奴が寂しさを感じてないなんて思わないでね。
さすがにそんな事を言えるはずもなく、言うつもりもなくて膝の上で甘えるゆきむらを撫でる。こいつ分かってて甘えてきてるな。こんな時どうすればいいのか知っているから質が悪い。それでも結局絆されてしまうのだけど。
「佐助」
「んー?」
不意に名前を呼ばれて顔を上げるが、目の前に菜緒の姿はなかった。あれ?と反応するより早く、後頭部にふわふわした感触。俺様の大好きな柔らかさ。菜緒に頭を抱えられた時のものだ。
どこかの誰かとは違い空気の読めるゆきむらは早々に膝の上から退散している。
「寂しかった?ごめんね」
「…んーん」
あらら、ばれちゃってたか。今さら隠しても仕方ないけど素直にさらけ出すのは少し恥ずかしい。照れ隠しに菜緒の腰へ腕を回して、そのまま両腕の中へ引きずり込む。
腰に回した手を少しずつ下げていって形のいい小さなお尻を撫でたら、おばか、と頬をつねられた。
「いーじゃんちょっとくらい」
「ゆきむらがいるでしょ」
「見てないよ」
見てない…、と呪文のように囁いて菜緒の唇を静かに奪う。触れた唇は柔らかく、じわりと二人分の熱が生まれる。舌でひとつひとつ歯列をなぞり上顎を舌先でくすぐると子犬のように、くうん、と菜緒が鳴いた。反射的にだろう、軽く舌を噛まれ鈍い痛みが走る。
「…あ、ごめ…」
「大丈夫。でも、怪我した時の対処法、知ってるよね?」
に、と笑って舌を出す。見る見るうちに菜緒の顔が朱に染まっていく。真っ赤な顔でうろたえる菜緒はすごく庇護欲をそそるけど、ここは譲れない。
笑みを崩さない俺が引かない事を悟ったのだろう。菜緒は小さく口を開き、おずおずと舌を伸ばした。触れた舌先から、つつ、と上へ登り、菜緒の唇に俺の舌が届いた所でぱくりとくわえられる。
欲望のままに絡める行為とは程遠く、まるで赤子が乳を吸うかのよう。それが一層背徳感を抱かせ高ぶっていく。男というのは実にその手の状況に弱い。
ちゅうちゅうと一生懸命に舌を吸っていた菜緒の頬をゆるりと撫で、そっと舌を抜く。ちゅぽんと立てた音は滑稽なのに、この状況では更に熱が増すのも仕方なかった。
物欲しげな色を瞳に浮かべて見上げる菜緒の鼻先へ唇を落とす。もっとしたかった?と訊ねれば、…ばか、と赤い顔が睨んでくる。
「菜緒赤ちゃんみたいだったね。いつもは俺様が言われるのに」
「だって佐助が、んッ、…手ぇ」
「ん?んー…」
うにうにと手の中で形を変えるそれを楽しみながら文句を言おうと開けられた口を塞ぐ。わざと水音を立ててするのは菜緒がこれに弱いから。聴覚的な事によく反応するんだよね。
頭も体もとろけ出した菜緒を、そっとラグの上に寝かせ、無防備な耳元に舌を這わせてから唇を寄せる。
「ゆきむらにも手伝ってもらう?」
「…は…ッ!?」
「うそだよ。あれ?ちょっと期待した?」
服越しでもうっすら目立ち始めた胸の頂きをカリ、と引っ掻いて、ブラウスのボタンをひとつずつ外していった。
甘く柔らかにとろけていく、
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