正直言うと私はあまりお酒が得意な方じゃない。呑めない訳ではないが率先してお酒を呑む事もないので、呑むとなれば自宅がほとんど。

そうなるといつものメンバーで集まるのが至極当然の事になったのはいつからだっただろう。


「菜緒ー、そこのとって」

「もう止めといたら?政宗くん顔真っ赤だよ」

「られがまっから」

「おめーだ。呂律も回ってねえし」


切れ長の目がキリリと引き締められるも真っ赤な顔じゃ怖くも何ともない。酔ってないと言い張る政宗くんに元親くんがやれやれとため息をつく。

3人で集まるといつもこう。見るからに強そうな元親くんはやっぱり酒豪、政宗くんも決して弱い方ではなくむしろ強い部類に入るんだけど、家で呑むのもあってカパカパいくらしい。このメンツなら酔おうが醜態を見せようが気兼ねも何もないしね。

私にストップをかけられて、ほっぺを、ぷ、と膨らませる政宗くんにこれで終わりにしとけな、と元親くんが近くにあった一本を渡す。途端にニヘッと笑って発音怪しくさんきゅうと受け取った。


「また甘やかしてー」

「まあまあ。このまま潰れたら俺が部屋まで連れてくからよ」

「お願いね」


咎めつつもごきげんで缶を傾ける政宗くんを見れば、まあいいかと思ってしまうのもいつもの事。普段じゃ考えられないくらい緩みきった顔で鼻歌まで歌いだしそうな政宗くんに私達の頬もつい緩んでしまう。

うっすら汗をかいている酎ハイをひと口含んで、ゆっくりと喉に流しこんだ。ぬるくなって甘さが引き立ったジュースのようなそれも、じんわりと喉や頬が温かくなる効力を持っている。

政宗くん程ではないが、私も少しは酔っていて頭や体がほぐれていく感覚を抱く。ああ、このふわふわした感じが気持ちいいのよね…。

ふふ、と勝手に笑いがこぼれる。これじゃあ政宗くんの事も笑えないなあと、また笑みがもれてしまった。


「お前も大丈夫か?」

「んー…ふわふわしてるー…」


自分で姿勢を保っているのが億劫になってきたので隣にいた元親くんの肩に頭をおいた。軽く触れたそこから拒絶は感じられないのでこのまま甘えてしまっていいのだろう。肩から繋がる逞しい腕に上半身をゆっくりと預けても、その腕が頼りなさげにぶれる事はない。

もぞもぞと頭を動かして、フィットする場所を探す。ようやっと落ち着いたところで元親くんの頭がそのまま私の頭に重ねられた。頭頂に触れている頬の感触と服越しに伝わってくる体温に体から余分な力が抜けていく。

ぺとりと頬に宛てられた指の背。温かくて優しい指がすり、と撫でた。心地良くて目を瞑ってそれを受け入れれば、猫みたいだな、と元親くんが小さく笑った。


「にゃーん、ごろごろごろ」

「よーっしゃっしゃっしゃっしゃっ」

「わっ、わっ、ちょっ」


元親くんの何かに火が着いてしまったのだろうか。無骨な手が遠慮なく、わしゃしゃしゃしゃー!と髪を乱していく。さっきの優しい手付きとは全く違う。話が違うぜアニキ!と非難の声を上げようかとも思ったが、何故か妙に心地良くて一度開いた口を閉じた。

そういえば佐助達もよくこんな風にわしゃわしゃされて気持ち良さそうにしてたっけ。荒っぽいけどイヤじゃない不思議な元親ハンド。

しばらくすると手付きが幾分おとなしくなった。髪の合間をするりするりと滑る指。お酒が入っていた事も相俟ってふわふわしていた頭が次第にウトウトに変わる。

このまま寝ちゃえたら気持ちいいだろうなあ…。


「あーにやってんだおまえらあ」

今までごきげんで呑んでいた政宗くんがジロリと私達を睨むと、そのまま私の膝の上へ仰向けに寝転がる。おれもまぜろあほーと抗議してくる顔はやっぱり真っ赤で、眼なんか今にもとろけそうだ。


「よーし、イヤって程構ってやろう」

「ぎゃあっ、くすぐってえ!」

「こんなもんで根を上げてちゃ長い夜は耐えきれねえぞ…?」

「兄さんセリフがギリギリです」


仰向けのまま睨み上げる政宗くんの顔を逆から覗き込むようにして囁く元親くん。
弟分達を魅せて止まない男らしさへ更に女の子も腰砕けな色気なんてものをプラスしてどうするつもりなんだ。色気的にも視覚的にもヤバいです兄さん。

しかし同じく色男として名を馳せている政宗くんは屁でもないようで、「へっ」と鼻を鳴らしてちらりと私を見た。切れ長の隻眼と目が合う。あ、やな予感。


「菜緒も道連れだ!」

「ぎゃっ!ちょっ!やめてよっ!」

「おとなしくしやがれ!」


伸びてきた政宗くんの腕が、がっちりと体に巻きつく。びくともしない腕を剥がそうと必死にもがけばもがくほど力が込められて抜け出せる可能性は万に一つもないようだ。


「このまま俺の手で背骨を折られるか、元親の手で呼吸困難にされて苦しむか選べ」

「行き着く先は一緒じゃん!」


やだやだやだ!と涙を浮かべて首を振ったってこの2人は動揺すら見せない。ちょっとくらい動揺しやがれ!と密かに毒づいていれば、いきなりのしかかってきた元親くん。ぎゃあ!と上がるぶさいくな声がふたつ。


「おとなしくしてな。可愛がってやるぜ…?」


背後から聞こえた声に背中が戦慄き、わきわきと蠢く指から目が離せない。

そらあ!と勢いよく政宗くんと一緒に思い切り脇腹をくすぐり上げられ悲鳴が武田荘全体に響き渡る。女の恥じらい?そんなの気にしていらいでか!

3人もみくちゃになって、ちびっこ達じゃあるまいし、と冷静な部分で考えつつ無性に楽しくて笑いが止まらなかった。

まあ、ほとんど強制的に笑わされているわけですが。

その直後、憤怒の仮面を付けた小十郎さんに「子ども達が起きるだろうが!」と雷を落とされたのは言うまでもない。



大体いつもこんな感じ。



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