動いていると薄く汗ばむ日が少しずつ増えてきた。長く居座っていた冬も重い腰をようやく上げる気になったらしい。
冬には冬の良さがある事はもちろん知っているし、嫌いじゃない。でも大人になるにつれて寒さに弱くなってきたのもまた事実。昔は冷たい風が吹いていても駆け回ったものだけど…と思いを馳せてしまうのは武田荘のおちびちゃん達が外で元気に遊ぶ姿を見ているからだろう。
お昼を過ぎた現在。何をするにも全力な彼らは電池が切れたようにみんなぐっすり眠っている。いつも賑やかな武田荘だが、このお昼寝タイムだけは唯一静かな時間が流れていく。
コチカチコチ。
時計の音が妙に鮮明に聞こえるのは常との静けさの差があるからかもしれない。
幸村を真ん中にしてすやすや寝息を立てるおちびちゃん達。一枚の毛布を横にすれば充分3人を包み込める。まだ少し余裕が残っているくらいだ。
寄り添うように眠る佐助と元就も幸村の前ではいつも立派なお兄ちゃんだけど、今だけは年齢差を感じない。無垢な寝顔につい頬が緩む。政宗くん、元親くんのいかつい眼帯コンビですら寝てる時は可愛く見えてしまうのだから寝顔というのは恐ろしいものだ。まあ、うちのおちびちゃん達は年中無休で可愛いのだけれど。
温かいコーヒーに口を付けて、ちらりと時計に視線を移す。
…もうそろそろ、かな。
そう思ったのと同時に毛布の端がもぞもぞと動いた。
「おはよ、元就」
ゆっくりと体を起こす元就。ぼんやりしたお目々から覚醒していないのは明らかで、普段から利発な顔付きをしている分こんな元就を見られるのは何だか得した気分になれる。
手の甲で軽く目をこすってから、もそもそと毛布から這い出てきた。何も言わずに待っていると、そのままぺたりと背中にくっ付く。おでこをうにうにと押し付ける元就は不機嫌そうで、つい笑ってしまう。
意外にも寝起きはむずがるタイプらしい。元親くん曰わく、朝はそうでもないがお昼寝後や、たまに夜起きてしまった時はぐずぐずしてしまうようで。幼いながらも冷静で、私たちにもざっくり突っ込みを入れてくる子なだけにこういう姿を見ると余計に可愛らしさが募るというものだ。
「どうしたの、なりくん。おいで」
「…ぅ〜…」
体を半分ほど捻って、腰に腕を回してむずがっていた元就を抱き上げる。服を掴んで顔を押し付けては唸るところからして、まだまだ元就の機嫌は直りそうにない。
うにゃうにゃとぐずる元就の背中をとんとんと宥めたたく。寝汗をかいてしまったのだろう。乱れた前髪がきれいなおでこに張り付いていたので親指ですくった。
「汗かいちゃったね。ちょっとお茶飲もうか」
「ぅ、うぅんん…」
「冷たくておいしいよ。はい、りっくん、あーん」
「んん…」
胸に押し付けていた顔をほんの少し向けてじっとカップを睨む。手は相変わらず背中に回されたままで離れる気配はない。了解しました王子様、と苦笑しながら不機嫌から突き出し気味の小さな唇にカップをくっ付けた。
傾けすぎないよう気を付けて、ゆっくりと飲ませてあげる。こく、こく、こく、と微かな音を立ててお茶は無事に流れていったみたいだ。
「…はふ」
「もっといる?」
ふるる、と気だるげに首を振る。濡れた口元を親指で拭ってあげたら、また元就の瞳がとろみを帯びてきた。背中を撫でてやると、ぽてんと小さな頭が寄せられる。
ぼんやりした表情はそのままだけど、不機嫌さはもう見えない。うに、と胸に顔を押し付けたかと思うと、膝の上に乗った体から力が抜けていく。
いつも私の膝の上は佐助か幸村に占領されている。物わかりが良くて、お兄ちゃんな元就が膝に乗る事は滅多になくて。
顔を隠しながらも全身を預けてくる元就の明るい茶色の髪を梳く。背中に回された小さな手がきゅっと服を掴む感覚に、私の頬もゆるゆると緩んでいった。
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