かっこよくて優しいゆきむらさま。ゆきむらさまにはふかふかのお耳とまふまふのしっぽがついています。菜緒は、しっぽをぎゅう!としてお昼寝するのがだいすきなのです!
「これを許すのはお前だけだぞ、菜緒」
そう言って頭をなでなでしてくれる時のゆきむらさまは、おむねがドキドキするほどかっこいい。そんなゆきむらさまのおよめさんになれて菜緒はしあわせです!
でも、ゆきむらさまばかりが菜緒をお膝にのせてなでなでしたり、ぎゅっとしたり、ちゅうっとして「ふうふのいとなみ」?ってやつをするのに、菜緒から「ゆきむらさまのお役に立ちたいです!」って言っても「まだ早い」と相手にしてくれません。お掃除やご飯、洗いものだってさせてくれません。代わりにキツネさん達がやってくれるのです。菜緒がゆきむらさまのおよめさんなのに!
ゆきむらさまのぶか?のキツネさん達は人間みたいに二本の足で立ちます。背は菜緒よりも小さくて、足のうらだって小さくてちょこんとしか床についていません。だけどキツネさんは菜緒よりもずっと速く走れるし、重い荷物もへっちゃらなんだって!
オレンジ色のしっぽをふりふりしながら畳のお部屋をホウキで掃くキツネさんに、何かおしごとないですか?って聞いたけど、菜緒ちゃんはのんびりしてたらいいんだよって頭をなでなでされました。ぷにぷにの手のひらが気持ちよくて、もっとなでなでしてくれないかなあと思ったけど、菜緒の頭はゆきむらさまのものだからガマンガマン!
いつもゆきむらさまと一緒にひなたぼっこをする縁側に座る。キツネさんに、そこにいるとホコリすっちゃうから部屋の外にいてねって言われたからです。
むー…、ひとりで縁側に座ってもつまらない。ゆきむらさまはおしごと中だし、キツネさん達もおしごとしてる。菜緒だけ何もしてない。むぅう…。
ほっぺたをふくらませてお外を眺めてたら、ネコさんが2匹、おにわに入ってきました。ごろんごろんしたり、お互いのお耳をもぐもぐしたり、体をなめています。洗濯ものが入ったカゴを持って後ろを歩いていたキツネさんに、ネコさんは何をしてるの?と聞いてみました。
「ああ、毛繕いしてるんだよ」
「けづくろい?」
「にゃんこは菜緒ちゃんと違ってお風呂に入らないからね。かわりに体を舐めてキレイにしてるのさ」
キツネさんはものしりだなあと言うと、ふあふあのお耳をぴんっ!と揺らして、また頭をなでなでしてくれました。とても気持ちがいいです。ゆきむらさまのなでなでの次に好きになりました。
「あれは多分夫婦だなあ」
「めおと?」
「ふうふ、って事。菜緒ちゃんと幸村様と同じだね」
二人みたいに仲良しさんで可愛いねえ。そう言ってキツネさんは洗濯場へ行ってしまいました。その後ろ姿に手をふることは忘れません。
「めおと…は、ふうふ…」
ころころ転がるネコさん達。菜緒とゆきむらさまとおんなじ…。あっ!そうだ!
立ち上がってすぐにゆきむらさまのお部屋を目指して走りだす。廊下を走ってはなりませぬぞー、というキツネさんの声が聞こえた。ごめんなさあい!でも菜緒は早くゆきむらさまのところへ行きたいんです!
「ゆきむらさまあ!」
「どうした?」
「あっ、おしごと中…ごめんなさい」
「かまわぬよ」
朝、ゆきむらさまはおしごとをするからって言ってたのをすっかり忘れてしまってた。開けたふすまのかげにかくれたら、ちょうど仕事が終わったところだ、ってゆきむらさまが笑った。
こっちをむいて両うでをひろげたので、菜緒はゆきむらさまに飛びつきました。
「すまぬ、寂しくさせたな」
「菜緒はだいじょうぶですっ」
「それはそれで俺が寂しくある」
「菜緒は、ゆきむらさまが待ってなさいって言ったからひとりでも待てたけど、でもゆきむらさまと一緒が好きです」
「そうか」
「大丈夫」と「寂しくない」は同義ではないものな。ゆきむらさまは菜緒をぎゅうとして、頭のてっぺんにちゅうしてくれました。菜緒も朝ぶりにゆきむらさまに会えてすごくすごく嬉しいです!
頭やほっぺた、おくちにしてくれるちゅうが気持ちいい。おくちがはなれて、ゆきむらさまあ…とふにゃふにゃした声が出た。ゆきむらさまのこの笑顔、やさしくて好きだなあ。
…はっ!こんなことしてるばあいじゃない!
「ゆきむらさまっ!」
「お、なんだなんだ」
「菜緒もゆきむらさまと『ふうふ』がしたいのっ!」
「は?」
ぽかんとするゆきむらさまのお膝からおりて、足のあいだに立つ。目の前にある茶色のさんかくお耳はいつもふわふわ。そんなお耳をぱくり!
「ん、なっ!?」
「ふうふのいろなみれすー」
「なっ、はっ!?夫婦の営み!?」
「ネコさん達がやっれらの。けるくろい、れす!」
「わっ、分かったから喋るな」
おくちの中でお耳をもむもむしたら、ぴゅくぴゅく揺れた。でもなぜかゆきむらさまは目をぎゅうとつぶってる。どうしてかなあ。
べろでお耳の中をぺろんしたら、うっ…、って声が聞こえた。ゆきむらさま?
「…ぷはっ。ゆきむらさま、菜緒じょうずに『ふうふのいとなみ』できましたか?」
「…ああ、大層驚いたぞ」
ちょっとゆきむらさまのほっぺが赤くなっててフシギだったけど、頭をなでなでしてくれたので嬉しかったです。
「またしてあげるね!」
「…楽しみにしておる」
その時、赤いほっぺたが、にやりと意地悪に笑ってたのなんて菜緒はぜんぜん知りませんでした。
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