リビングの小さなテーブルには分厚い参考書とノートと私。その向かい側にはシルクと楽しそうにじゃれ合う景吾くん。
しかしシルクは「ぶにゃあ!」と不機嫌極まりない声で応戦している。(そんなぶさいくな声出さないでシルク!)
彼らの楽しそうなのか殺伐としているのか分からないじゃれ合いでさえも今の私には羨ましい事限りない。
ぐでんとテーブルに突っ伏している私には、彼らとの間に大きな壁があるのだ。
(だらしない姿見せちゃダメだよなぁ…)
そうは思うものの身体に力が入らない。なけなしの集中力はテスト勉強という強敵によって全て倒されてしまった。
「どうしたんだ?どっか痛いのか?」
シルクを抱き抱え、「ねこぱんち!」と遊んでいた景吾くんが私の方を振り返る。隙ありとばかりにシルクはスタタタとどこかへ逃げてしまった。
(せっかく楽しそうに遊んでたのに。申し訳ない事しちゃったなぁ)
「ごめんね」と小さく謝ると「なにが」と即座に返されてしまう。景吾くんの大きな瞳には私しか映っていなかった。それが何だか無性に嬉しくて
(どれだけ構って欲しかったのよ)
まるで小さな彼と変わりないじゃない、と苦笑いを浮かべてしまった。
「それそんなに難しいのか?おれが手伝ってやろうか?」
見せてみろ、と私の膝に乗っかって広げられた参考書を覗く。ふんふん、と頷く景吾くんの後ろから手を回して小さな身体を緩く抱きしめた。
「あー…癒されるうー…」
小さなものを抱きしめると癒されるから不思議。前まではテディベアくらいしか無かったけど、近頃じゃもっぱら景吾くんだ。テディベアも可愛いけど彼に敵うはずわけがない。
(もし景吾くんがいなくなったら私どうしよう)
ストレスで死んでしまうかもしれないと本気で考えていると景吾くんは顔だけで振り返った。
「ぎゅってしたら癒されるのか?」
「そうだよー。ごめんね、いつも勝手に癒されててー」
謝るけど離さない。まだチャージ出来ていないのよ。しかし私の充電具合なんて景吾くんが知るはずもなく、腕はあっさりほどかれてしまった。残念…。
立ち上がった彼はその場を動かず、振り返って私と向き合う。
疑問符を浮かべて、少し目線の高くなった景吾くんを見上げる。すると彼はおもむろに腕を広げて私の頭を抱えこんだ。
「どしたの、景吾くん」
「おれがやってやる」
「へ?」
何を?と更に増した疑問符をなぎ払うように小さな手は私の頭をわしゃわしゃと撫で始める。されるがままの私。
「イライラがなおりますよーに」
ムニャムニャとおまじないのように呟かれる声を聞き取って、やっと彼のしたい事が理解出来た。
「どうだ?なおったか?」
「…効果バツグン!」
すでに充電は完了していたけれど、優しい彼の可愛いおまじないに甘えて、抱きしめてくれる小さな彼を更に強く抱きしめた。
【君の存在が癒しそのもの】
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