たとえるなら、それは



「先輩!菜緒先輩!」


先生に渡された資材を社会準備室に片付けるため、廊下を歩いていると掛けられた声。駆け寄ってくるのは後輩の長太郎。

大きな体に見上げる長身。爽やかな笑顔に優しい性格。そして彼はとても可愛い。


「長太郎。奇遇だね、ここで会うなんて」

「俺もこっちに用があって。菜緒先輩に会えて嬉しいです」


それはそれは嬉しそうに笑って。しっぽなんか付いていようものなら千切れんばかりに振っていそうだ。隣でニコニコしている彼を見上げる。こんなに好意を顕にされて、嬉しくないはずがない。


「ふふっ」


堪えきれずに頬を緩ませると、長太郎は明かりが着いたように瞳を輝かせた。


(癒しだなあ…)


ふと、腕が軽い事に気付く。


「あ、れ?私、資材…」

「これですか?」


ひょいと出された資材は、さも当然のように長太郎の腕に収まっていた。


「重そうだったので。力仕事は男に任せておけばいいんです」


「ここですよね」と片手で荷物を持ったまま扉を開けて、先に私を入れてくれる。ちらりと見上げた長太郎はとても年下には見えない。こういう事を自然にする長太郎に、ガラにもなく顔が熱くなる。
女の子扱いをされる事に慣れていない私には、彼のこんなところに照れてばかりだ。

私の前で長太郎は資材を軽々と棚の上にのせた。


「これで大丈夫、と」

「ありがとう。助かっちゃった」

「菜緒先輩のお役に立てて光栄です」


そう言って笑う長太郎はいつものわんこで年下な彼。心なしかほっと息つく自分がいた。



「長太郎はかわいいなあ」


あはは・と笑って背の高い彼の腕を掴み、少し屈んだ長太郎の頭をよしよしと撫でる。まるで犬を愛でるように撫でると、少しむっとした表情。


(あ、怒るかな)


不安になって手を引くと、長太郎は姿勢を正して私の正面に立った。


「菜緒先輩」

「はい」

「ハウス」


にこやかに腕を広げる長太郎。思いもしなかった発言に一瞬フリーズを起こした。そんな私に構わず、長太郎は腕を広げたまま。


「菜緒先輩」


優しい声色で名前を呼ばれて、そろそろと近寄って長太郎に手を伸ばす。広い胸に顔を隠すようにうずめれば、そっと抱きしめられた。


「…まさか長太郎にそんな事言われるとは思ってもみなかった」

「すみません、嫌でしたか?」


申し訳なさそうな声が上から降ってくる。私は答えずに長太郎のシャツを握った。


どうしたんだろう私、全然イヤじゃなかった。それどころか、


「菜緒先輩は俺に頼らなすぎです」


少し力の入った腕に、嬉しさと恥ずかしさが込み上げる。


「もっと甘えないと損しますよ」

「だって…」


恥ずかしいし、私の方が年上だし、


色んな理屈が頭を掠めていく。まごつく私に小さな振動が伝わった。


(あれ?笑ってる?)


どこに笑う要素があったのかと考えていると、長太郎の唇が耳に寄せられた。


「先輩がそんなだから俺がこう出来るってのもあるんですけどね」

「………」



そう。いつだってそうなんだ。いつだって甘えさせてくれるスキを与えてくれるんだ、長太郎は。

堪えきれなかった振動が密着した体から直に伝わってくる。伝わる長太郎の振動とは反対に、私は赤くなった顔がバレないよう更にくっついた。


(ああ、でも胸を叩く鼓動が全てを伝えてしまう)


大きな体に見上げる長身。爽やかな笑顔に優しい性格。

―そんな彼が、私はとても好きなんだ。




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