跳んで走って、また跳んで。
飛び付いきてきゃんきゃん高い声で嬉しそうに鳴く幸村はまさに興奮の塊そのものだ。
佐助は甘えたい時はそっと傍にきて静かに擦り寄ってくる子だから私もそれを察して猫可愛がりするのが常。
こんなにも違うものなのねー、と当たり前な事を考えながら膝の上に乗せた幸村を撫でる。
構って構ってとはちきれんばかりに尻尾を振る幸村とは対極に、佐助は私の脇腹あたりに頭を擦り付けて「構え」の合図。
指先で二匹の喉元をくすぐれば、くふくふ鳴いて綿毛みたいなお腹を晒してじゃれてくる。
ううう、どちらも表現に困るくらい可愛い…!
「幸村も佐助みたいに変身出来たら楽しかったのにね」
ぴん!と耳を立たせて見上げる佐助にもしもの話ね、と笑う。幸村は自分だけ話に入れないのが寂しいのかグリグリと私のお腹に潜り込んできた。
こしょばいこしょばい!幸村の前脚に手を差し込んで抱き上げれば「ブブブブブ!」と音が聞こえてきそうなくらい振られている尻尾に笑ってしまった。
…確かに、確かにそんな事、言った。言いましたとも。
ちっこい佐助とちっこい幸村が尻尾ふりふりお話してたら、それはそれは可愛かろうと思いましたとも。
チョコレートブラウンのふわふわした髪と、それより少し薄い茶に覆われた犬耳、犬尾。
私を見つめるどんぐりみたいなくりくりお目々はキラキラ輝いていて昨夜さんざんじゃれついてきてくれた彼を彷彿とさせる。
寝起きはいつも役立たずな脳みそはとても冷静にこのデジャヴを受け入れた。
「…ゆき、むブアッ!?」
ぺちん!と可愛く表現するには些か強い衝撃が顔面を襲い視界が遮られた。とりあえず鼻が痛い。
きゃきゃ!と初めて耳にするはしゃいだ声と「こらあ!」と聞き慣れた佐助の焦った声が鼓膜を刺激した。
「そんなことしたらあきちゃんいたいでしょ!だめ!」
「おー」
ほとんど涙声で注意する佐助に従って視界を遮っていたものがどけられる。上体を起こしつつ若干ひりりとする鼻をさすっていたら、視界の端にキャラメルブラウンを捉え、途端それが思い切り飛び込んできた。
「わっ!」
「あきちゃん!だいじょうぶ!?いたい!?」
呆気にとられながらも、人型に戻ってひんひん泣く佐助を抱き止めて落ち着かせようと背中を優しく撫でる。
ひくつく背中を何度も撫でているうちに、丸くなって泣いていた佐助の呼吸は落ち着いてきたようだがまだ嗚咽は止まらない。
よいしょ、ときちんと見えるように抱き直す。
ぐしゅぐしゅと洟をすすり小さな手で目を拭う佐助。
元より優しい気質の子なのだ。彼はいきなり飼い主がたたかれてビックリしたのだろう。そんな心優しい仔狐にそっと微笑みかけた。
「私は大丈夫。だから泣かないで、ね?」
「…ほんと?もういたくない?」
「ほんと。おはよ、佐助」
「…おはよぉ」
涙に濡れていた頬をふにゃんとふやかせて笑う佐助のおでこにちゅ、と唇をひとつ落とせば「…へへ」と口付けたそこに手を当てて頬を赤く染めた。
最初に比べたら騒がなくなったものの、それでも初々しい反応は変わらない。
尻尾をくゆらせてご機嫌を示す佐助にめろっと胸をときめかせていると袖をくいくいと引っ張られる。
見上げてくる大きな瞳にやっと気付いて、とりあえず状況を整理するかとチョコレートブラウンの髪をくしゃくしゃに撫でた。