2人の出会いは奇しくも、あき達との出会いと同じで小太郎が氏政の家へ迷い込んで来たところから始まる。違いと言えば、当時の小太郎はまだ野良であり、彼自身も変身能力に気付いていなかった事だろう。

まだ幼いふくろうと翁。傷付いたふくろうに「小太郎」と名前を付けて介抱するうちに1人と1匹の間に確かな絆が出来ていた。

野生のふくろうが居着くというのは不思議な話ではあったが、一人暮らしの氏政は張り合いが出ていいものだと笑った。不意に小太郎の変身能力が発動した時も、狼狽える小太郎をよそに孫が出来たと大層喜んだのも氏政だった。

腰痛を持つ氏政を庇い、幼いながらも甲斐甲斐しく手伝いをする小太郎に支えられたのはきっと生活面だけではない。


「小太郎が帰ってこんかった時は心臓が止まってしまうかと思うた」


夜行性である小太郎に散歩と称して夜放すのは日課であった為、普段ならば戻ってくる時間になっても帰ってこないと気付いた瞬間血の気が一気に引いた。頭を駆け巡る最悪の事態。たった一晩が永遠のように感じられた。


「もしかして、とは思うておったのじゃ」

「何がです?」

「小太郎は方向音痴なんじゃなかろうか」


お、おおう…。氏政のその言葉に武田荘の男性勢は声にはしないものの皆心中で同じ反応をこぼす。動物で方向音痴は有り得るのだろうか、と言いたいところだが有り得ない事ではないのかもしれないし、本人に訊ねようにも小太郎は言葉を持たない。

あきだけは「それだと1人で散歩させるのは心配ですね…」と少し違った反応を見せていた。


「同じ質を持つ者が出会おうたのだ。目に見えぬ縁が働いたのであろう」


そう考えるのが一番しっくりくるわ!と豪快に笑い飛ばす信玄。佐助曰わく、この力を持つものは稀有であり勿論その通りだと思う。

それでも武田荘にいる動物達は全員その力を持つ。小太郎とも出会うべくして出会ったのだと考える他はない。


「小太郎くんが北条さんの元へ帰れて本当によかったです」


安心しきった様子の小太郎の姿に、あきがほわりと笑みを浮かべる。頷く一同に氏政は目元に皺を刻んで、ありがとうございますじゃ、と頭を下げた。少し潤んだ瞳にあきの鼻の奥もツンと痛む。


「では、そろそろお暇させていただこうかのう。ほれ、小太郎ご挨拶じゃ」


こくんと頷いて氏政の腕から離れ、立ち上がる。一晩を共にした面々を見渡して、ぺこりと小さな頭を下げた。


「小太郎くん、またいつでも遊びにきてね」


膝を折り、小太郎の両手を包むあきに小太郎も頷く。包んでいた片方の手を口元へやる小太郎に、あきの顔が笑顔になった。


あ り が と う


どういたしまして。2人のやり取りを不思議そうに見守る面々。小太郎はふんわりと笑みを返した。


「大変お世話になりましたですじゃ」

「ちょっとまって!」


玄関先へ立ち、最後に再度頭を下げた氏政と小太郎を見送っていると後ろから焦った声が飛んできた。あきと政宗の間をすり抜けるキャラメルブラウン。
少しだけ驚いた様子を見せる小太郎の前に立つ佐助は素足だった。


「あの、ね、その」


言い淀む佐助。視線は落ち着かなく泳ぎ、もじもじと指を絡ませあう。小太郎はただ静かに佐助の言葉を待った。

うーうー唸る仔狐は、下の方で泳がせていた視線をちらりと向けて口を開いた。


「また、あそびにくる、よね…?」


……こくん。小さく首を縦に振った小太郎に、佐助はふにゃりと笑って「やくそくのしるし!」と小指を立てる。差し出された小指にもうひとつの小指が絡まって、ゆーびきった!と佐助の声が響いた。





2人を見送った後、しばらくおしゃべりしてから各々部屋に戻った。ソファに腰を降ろせば隣にちょこんと佐助が座る。

しかし、いつもならぺとりと引っ付いてくる仔狐はやって来ず、心なしか離れて座っていた。静けさの広がる部屋に肌寒さを感じて、ファンヒーターを付けようと立ち上がれば佐助の耳と尻尾が大げさに跳ねる。

つられて驚いて佐助を見るも、わたわたと慌てた後ゆっくりと逸らされてしまった。

ぶぅん…。ゆっくりと温風が吐き出される。また腰を降ろせば、ちらちらとこちらに向けられる視線。

だけど私からは何も言わない。きっと私から言えば佐助が黙ってしまうから。時間は相手の言葉を引き出す有効な道具のひとつである、と何かの本で読んだ。

ヒーターと時計の音が奇妙に合わさりあったへんてこな曲にも耳が慣れ始めた頃、佐助のくちびるがゆっくりと開いた。


「あきちゃん…あの…」

「なあに?」

「…おこってる?」

「え!?なんで!?」


何を言うのかと思えば全く予想外のセリフ。びっくりして口をぱくぱくさせていれば、だって…と言葉を紡いだ。


「あきちゃに、かぷんしちゃったし…。こたろにだって、ぷんって、しちゃったし…」


おれさま、へんなの。あたま、いたくなってあつくなって、うわあああ!ってなったの。あきちゃを、ぎゅうってしたくなって、してもらいたくて、しかたなかったの。


複雑な感情は大人でさえ表現するのは難しい。それでも拙い言葉で一生懸命伝えてくる佐助が愛おしくて切なくて、そのままぎゅうと腕の中へ閉じ込めた。


「はぅ…あ…あきちゃ…」

「…私の方こそすぐに分かってあげられなくてごめんね」

「…っ…!…うぅん…!」

「いっぱい、ぎゅうしていい?」

「うん…っ」


胸に顔をすり付けたせいで佐助の前髪が大きく乱れる。ぐじゅ、と聞こえた洟をすする音。あらわになった丸いおでこを撫でて、名前を呼ぶと、うるうるしだした瞳とぶつかった。


「泣き虫ぃ」

「だってえ…!」

「…うん、それくらい私のこと好きでいてくれてるんだもんね」


光栄よ。そう言って今にも溢れ出しそうな目尻をなぞる。こーえい?と首を傾げた仔狐に、すっごく嬉しくて幸せってこと!と、また強く幼い体を抱きしめた。



心も順調に成長しています


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