「もとなりばっかりずるいよう!あきちゃん、おれさまもー!」
背中に張り付いてきたのは私の愛狐。ずるいずるいーと首筋に額をぐりぐり擦りつけてくる。
「ずるいも何もお前はいつも一緒であろう」
「おれさまはあきちゃんのだんなさまだからいいんだもーん」
顔を覗かせた元就に佐助が当然とばかりに言い返す。わあ、なんだか私モテモテ。
「なんだよあき、元就まで手玉に取りやがって」
「へっへっへー」
声を掛けてきたのは元親くん。後ろには政宗くんがいてブラシ片手に元親くんの前髪をいじっている。
「ポンパドールにしていいか」
「ポン?よく分かんねえから好きにしな」
よし、とブラシを通す政宗くんは新しいオモチャを得た子どもみたい。手際良く結う姿は様になっている。本当嫌味なくらい何でもそつなくこなす男だ。
されるがまま胡座をかいた元親くん足の上にはちゃっかり幸村が座っている。
ゴム飾りのキャンディブロックを口に含もうと大きく開いたお口に元親くんの手が蓋をした。食い物じゃねえと注意するが幸村くんはご不満の様子。確かにキラキラしたブロックはあめ玉みたいだもんね。
「幸村、こちらへ来い。我が構うてやろう」
「あい」
元親くんの腕からすり抜け、よちよちやって来た幸村を元就が抱っこする。抱っこというよりお互い不格好に抱きついてるって感じ。小さい子が小さい子を抱っこする図は可愛い。
「あきめ…!元就だけでは飽きたらず幸村までも…!」
「えええ今の私関係ないじゃん」
恨みがましげに睨んでくる銀髪の兄さんは髪を結っている最中なのでろくに動けない。去っていく幸村を追おうとしたら政宗くんにおでこを派手に叩かれたようで赤くなっていた。容赦ないなあ。
元就が幸村を構い始めた隙を見計らって、佐助がするりと私の膝を占領する。
「甘えんぼ」
つん、と鼻先をつついたら「えへへ」と満足げに見上げてくる仔狐。何だかんだ言いつつ甘やかしてしまうのはデフォルトなんだから仕方がない。
「よいか幸村。こんなものを食べるとぽんぽんが痛くなる」
「ぽんぽ?」
「そうだ」
またブロックを口に運ぼうとしていた幸村を今度は元就が止める。
めっ、と諫めてから自分のお腹を示してみせた。不思議そうに首を傾げる幸村に「ぽんぽん」と今度は幸村のお腹をさす。
示されたそこに手を置いて、かつてお腹が痛くなった時の事を思い出したのか幸村の眉間に皺が寄る。
「痛いのはいやであろう?」
「…あい」
しょんぼりうなだれるわんこ。一緒に元気を無くした耳を元就の小さな手がそっと頭を撫でた。
口調はきついが元就も実は面倒見がいい。注意する時も何がいけないか、どうなるかをきちんと説明するので小さい幸村も納得して頭を縦に振るのだ。
「なんか元就も兄ちゃんになったなあ…」
親の心境とばかりに呟く元親くんの声には成長した嬉しさと同時に少しの寂しさが混じる。
私にも覚えがあるその感覚。気持ち分かるなあと膝に乗って甘えてくる愛狐の首をくすぐった。
子どもの成長は光のごとく。