特製の雑炊はやっぱり美味しくてみんなペロリと平らげてしまった。ぶすついていた政宗くんもちびっこ達がもりもり食べてくれた事で機嫌を直したようで、今は幸村を膝に乗せて遊んでいる。

でも「突撃だー!」って言いながらいきなり幸村を小十郎さんに放り投げる遊びはどうかと思う!いや、これでもかってくらい幸村も楽しそうだけど!

冷や冷やする3人とは対照的に、元就はどこから持ってきたのか佐助の絵本を元親くんに渡していた。

渡された本人はぽかんとしていたけれど、佐助が「ごほんよんでくれるの?」と飛び付いていった事で元就の真意に気付いたようだった。

胡座をかいた元親くんの右に元就、左に佐助。ページが捲られるのを今か今かと待つ佐助の尻尾は感情をそのまま反映するように揺れている。

反対側の元就は黙ってじっとしているが視線は絵本に釘付けで頬は微かに赤く好奇の色が見てとれた。

少しだけ意外そうにしていた元親くんだったが、2人の様子に目を細め、男らしい長い指がゆっくりとページを捲った。


登場するのはしっかり者の犬と陽気なカエルのでこぼこコンビ。内容もさることながらイラストも丁寧で可愛らしい。二匹の様子が細かく描かれていて、絵を見ているだけでも二匹の性格や仲の良さが分かる私も大好きなシリーズ。

そんな二匹の物語を朗読する声に聴き入る。読み慣れていないせいか所々詰まる事もあったけど集中している2人の視線が本から外れる事はない。


(元親くんの声、落ち着くなあ)


隣ではしゃいでいた声も止み、静かになった空間。みんな絵本の世界に引き込まれていった。






「なんかさ、いいよね、こういうの」


あったかくって家族って感じ。思った事を口にして、ふへへと笑ってみた。元親くんは元就を足の上に乗せてまた別の絵本を読んでいる。幸村は小十郎さんと政宗くんに遊んでもらってるし、佐助は私の膝に乗ってごろごろしてる。

みんなそれぞれやってる事はバラバラなんだけど同じ空間にいる安心感がとても心地よい。


「元親くんと小十郎さんはお父さんみたいだし政宗くんはお兄ちゃんみたい」

「じゃああきは『お母さん』か?」


はは、と笑う元親くんに政宗くんがいやに真剣な顔で「いや」と止める。


「まだまだ母親ってほどしっかりしてねえだろ」

「言えてる」

「ちょ、うわもう本当失礼」


けけけと笑う眼帯コンビを睨み付けたらおちびちゃんズから「ひっ」と小さな悲鳴が上がった。おっと危ない危ない。

慌てて表情を戻す私に、元親くんは絵本を読む手を止めて「でもよお」と声をかけた。あ、元就すごく不満そう。


「独り身が今からそんな事言ってっと一生結婚出来ねえぞ」

「うっ…」


な、なんて耳に痛い言葉…。いや耳どころか心まで痛い…。


「そ、そう言う2人こそ…」

「俺たちは本気だしゃ心配いらねーもん。なあ」

「おう」

「ぐうっ…」


ぬけぬけと告げる眼帯組。そこいらの男が言えば笑い飛ばせる話もこの2人が言うと冗談に聞こえないし笑えない。これだから無駄に整った男は!


「あきちゃん、けっこん、ってなあに?」

「え?えーとえーと、好きな人と一緒になる、こと、かな?」


ニヤニヤしている2人を恨めしげに見ていた私の袖を引いてきたのは佐助。たどたどしくも答えてはみたが、そう言えば結婚の定義って何なんだろう。

はて?と首を傾げていたら、答えを聞いた佐助の表情が曇った事に気付いた。下を向いて耳までしょんぼりしている。どうしたんだろう。垂れた頭をなでなでしていると、佐助はぽそぽそと喋りだした。


「あきちゃんはほかのひとがすきなの?」

「へ?いや今んとこそういう人はいないなあ」

「…じゃあ、おれさまは?」

「大好きよ!あったりまえじゃない!」


瞳に不安の色をのせて見上げてきた仔狐に即答してぎゅうと抱き締める。ああもう何て可愛い質問!答えなんか決まりきってる!


「あき、あきひゃぁん」


わぷわぷしている佐助をもう一度ぎゅっとしてから腕を緩めた。薄紅に染まったほっぺたが愛くるしい。とろけきった頭と顔で甘そうなキャラメルブラウンの耳をくすぐる。ふるりと三角の耳を震わせ、細い喉がくぅんと鳴った。

少し潤んだ瞳が私を捉える。そこにはいつもの照れて泣きそうな顔ではなくて何か強い意志を感じさせるものがあった。


「じゃ、じゃあ、おれさまとけっこんしよう!」

「へ?」

「おれさまあきちゃんすきだもん!だいすきだもん!あきちゃんとずっといっしょにいたいもん!」

「え、ちょ、佐助?」

「おれさまがあきちゃんをまもるよ!」

「さ、」

「…お、おれさまじゃ…だめ…?」

「……佐助ぇええ!」


あまりに突然なプロポーズにうろたえたけど、なんだがどうでもよくなった。佐助が可愛いからそれでいい。嬉しい事を言ってくれたからそれでいい。

ぎゅうぎゅう愛しい愛狐を抱き締める。佐助も「えへへ」と首筋に鼻をこすりつけて嬉しそうに尻尾を揺らしていた。


「…なんっだこのバカップル」

「まー当人同士が幸せならそれでいいんじゃねえの」


呆れたと溜め息混じりに呟いた2人の言葉が私たちの耳に入る事はなかった。



可愛い可愛い旦那さまが出来ました



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