あらかたの水気は飛んでいたものの、まだ湿っている小さな体は毛が張り付いていて妙に痩せこけて見える。
苦笑しながらバスタオルで包み、次にタオルから顔を出した時は同じ生き物とは思えないくらいほわほわしていた。
「ふわっふわーいいにおいー」
両前足に手を差し込み抱き上げて、露わになった綿毛のように白いお腹にふるふると鼻をこすりつける。くすぐったそうに後ろ足でたしたしと顔を痛くない程度に蹴る彼をソファに連れて、膝に下ろした。
相変わらずお行儀が良くて、乗せられた膝の上にちょこんと座り、艶やかな黒目がちの瞳がばっちり私を捉えている。
明るいキャラメルブラウンの毛皮だけど、足、鼻、耳、太めの尻尾の先っぽは白。
尖った三角形の耳先端の白い部分をなぞるように撫でれば、ひくひくと揺れる。
「なんかきみ、キツネみたい」
まさかねえ、と冗談混じりに笑い飛ばせば耳を撫でていた手にすり寄ってきた。
くぅん、くふぅんと喉を鳴らす仕草は多少私に慣れてくれたからだと思えて嬉しいけれど、その様子がどうにも「肯定」を示しているように見えるのは気のせいだろうか。
「え、え、キツネなの?違うよね?」
「こん!」
…未だかつてこんな分かりやすい肯定があっただろうか。
しかし言われみればキツネだ。キツネ以外の何物でもない。何故犬に見えていたんだ自分、とささやかにツッこみながら、キツネの一般家庭での飼い方って何だろうかと首を傾げてみる。
「…まあ、それは明日調べるとして。きみの名前を考えようか」
何がいいかなーと見上げてくる小さな鼻を軽くつっつけば、やんやんと前足を使って指をどかそうと必死だ。しかし前足はギリギリ届かないようでばたばたと慌てる姿が可愛らしい。
「こぎつね…ヘレン、は雌の名前だし、コン吉…うわ、ありえない…」
自分の素晴らしきネーミングセンスに額に手を置いて天井を仰ぐ。そもそもキツネのメジャーな名前って何なのだろう。
「佐助」
「そう、佐助とか」
……あれ?
天井に向けていた視線を前に戻し、左右を見る。が、この空間には私と小さな客人しかいない。
「そ、らみみ?…にしちゃハッキリ聞こえたなあ…」
おかしいなと再度辺りを見回すが、やはり此処には私達以外の気配は無い。
膝の上にいる彼の柔らかな尻尾がゆらりゆらりと揺れて、私の腿をくすぐる。
「佐助?」
ふに、と首を傾げてもう一度聞こえた名前を口にした。くぅん、と鼻を鳴らした彼のそれは、まるで返事をしたみたいだった。
「佐助、佐助か。うん、いいね」
うんうんと一人頷いていると、佐助が二歩前に出て鼻先で私のお腹をつつく。それの意味する事が分からなくて「なぁに?」と問えば、黒目がちな瞳がじっと見上げてきた。
「…ああ!私の事ね。私はあき。よろしく佐助」
ちょいちょいと首をくすぐってやれば気持ち良さそうに目を細める。
可愛い同居人が出来たなあと私の表情もふにゃりと緩んだ。