「あ、小十郎さんのおやすみ写真!」
政宗くんの携帯に映し出されたのは小十郎さんの写真。それ自体は珍しくないんだけど(だって彼のフォルダも殆どが小十郎さん)、珍しいのは写った彼が黒い布の上で体を丸めて寝ている姿だったから。
政宗くん曰わく小十郎さんは、政宗くんよりも後に寝て、政宗くんよりも早く起きるそう。
よく出来た昭和の妻か!とツッコミもそこそこに小十郎さんへ視線を移せば、「お恥ずかしい姿を」と気恥ずかしそうに顔を逸らしていた。いや、なんでやねん。
「あまりにも珍しいから俺も久々に本気出したな」
ふ、とどこか老齢した百戦錬磨の写真家のような顔を見せる政宗くんにもツッコミを入れたかったが、飼い主すらあまり見た事がないくらい珍しいワンショットなのである。そりゃ本気にもなるだろう。
「でもほんと気持ち良さそうに寝てるね。小十郎さんいつも気を張ってるイメージだから安心したよ」
彼には猫特有の「気儘さ」がない。そりゃ武士の如く義理固い猫もいるのだろうが、今までお目にかかった事がなかったので少々私には小十郎さんが無理をしているのではないかと心配していた。
しかしそんな物は杞憂かつ余計なお世話であり他人が口に出す事ではない。
言葉にするのは難しいけれど、この2人の絆が生半可なものじゃないというのは充分知っている。
とりあえず私は「小十郎さんの寝顔が見れてラッキーだな」とそんな所に落ち着くのだ。
「まあ珍しいショットが撮れたのはいいんだけどよ、小十郎が寝てるこれ、俺の服だったから毛が付きまくって大変だったぜ」
苦笑する政宗くんに「実に申し訳ない」と小十郎さんが頭を下げる。
「いや、いい。気にすんな」と軽く手を上げて制すも、未だくつくつ鳴る喉に小十郎さんはいたたまれなさそうだ。なんというか、微笑ましい。
「俺も元就の羽毛がたまに舞ってくるからクシャミがなー」
仕方ねえ事だがよ、とニカリと笑う元親くん。元就は我関せずといった風に向こうの木へ飛び立っていった。
この手の話はペットを飼っていたら付き物。そんな所も含めて可愛いのだからもうどうしようもない。
「あきんとこも大変だろ?佐助は毛が長いからなあ」
私の腕から顔を出す佐助の耳をちょいちょいと触りながら元親くんが問う。相槌を打とうとした所で、はたと気付いた。
「…うち、きれいだ」
「はあ?」
何の話だ、と政宗くんが理解不能と表情で訴えているのを無視して、もう一度部屋を思い返す。
「きれいなの。私、佐助の毛の被害に遭った事ない」
毛だけじゃない。部屋の隅に溜まりやすい綿ゴミすら最近見かけない。今までだって特別散らかっていたという事はないけれど、平日は仕事に行くから掃除は休日にまとめてやっていた。つまり週末に近付くにつれて塵は溜まるわけで。
「でも最近毎日きれいな気がする」
「余りにも汚い部屋に対する現実逃避じゃねえの」
大真面目に無礼千万な事をほざく年下の眼帯にとりあえずデコピンをお見舞いしておく。
沈んだ政宗くんを無視して、腕の中の佐助を私の目線まで抱き上げた。
空いた膝にすかさず飛び乗る幸村に笑いつつ、眼前の佐助に「不思議だねえ?」と首を傾げたらきょとんとしていた。そりゃそうか。
幸村と佐助を膝に乗せて撫でていると、何か考えていたらしい元親くんが顎にかけていた指を離して、もしかしてと呟いた。
「妖精とか…」
むくりと起きあがった政宗くん。うん、君の気持ちは手に取るように分かる。
「…そうだね。妖精さんか小人さんが来てくれたのかもね」
「…そのピュアな部分を大切にな」
2人で目を細めてるとハッとして「可能性だ!可能性!」と真っ赤になってぶんぶん手を振った。
うんうんと微笑ましい気持ちで頷いてると「お前ら聞いてねえだろ!?」とさらにムキになる。
このガタイいい兄ちゃんは本当妙な所で可愛いので油断ならない。
結局その日は羞恥で茹で蛸みたいになった元親くんを散々愛でて終わった。
「…お前らなんかきらいだ」
可愛いものを愛でただけでそんな風に言われるのは大いに心外だわ。