皿についた泡を流す水音の合間に男の声が混ざる。とは言ってもそれはテレビを介した声であって実際本当に聞こえたならば俺は発狂するか、相手の男を何の躊躇いもなく手にかけるんだろうなとぼんやり思う。
まあ何だかんだ言って俺の事が大好きな菜緒が余所の男を連れてくる筈なんてないんだけど。

至った考えに自分自身満足してふふんと声に出さず笑う。すると後ろから愛しい彼女が俺の名を呼んだ。


「さすけー」

「はーい」


手を拭きつつ、ソファに座る彼女の背後に立つ。

菜緒は此方を向かず、背もたれに仰向けになって腕を伸ばしてきたので、それに合わせて腰を折れば細い腕が首に絡んできた。

互いの鼻が擦れ、吐息の掛かる距離。なあにと問うよりも先に口が塞がれる。

多少驚きはしたものの従順に舌の侵入を許せば滑らかな動きで何かがころりと口内に納められた。


「からい」

「薄荷?」


ちゅ、と軽い音を立てて唇を離し、彼女の温度を残した飴の味を確認する。他の飴に比べれば多少は辛いのかもしれないが俺からすれば断然甘い。


「薄荷きらいだから全部佐助にあげる」

「ひでえ」


苦笑を零す俺など気にも留めず、また菜緒はレトロなブリキの缶から飴を一つ取り出して口に放り込んだ。


見えたそれは果実味とは到底思えない白。


む、と眉間に皺が寄ったのを見て俺は未だ残る薄荷をがりりと噛み砕いた。



可愛い暴君



きっと彼女は意図的に減った果実の飴に気付く事は無いんだろう。




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