正体の分からない違和感に、ただ手を添える事しか出来ない。



起床後すぐに右目の違和感を覚えた。視界はいつもより狭まり、痛みを伴うそれ。
ああ、最後にこれを体験したのはいつだったか。

痛みを少しでも軽減させようとする本能なのか自然と落ちてくる目蓋に感心するが、薄ぼんやりした世界が右側から侵入してきて少し気持ちが悪い。





「誰かにくれてやったのか」


縁側に腰を下ろし、ぼんやりしていると突如降ってきた声。それを辿っていけば僅かに首を傾げたこの城の主が立っていた。

麗美な眉は歪み、鋭利な刃物を思わす隻眼はどこか苛立たしげ。どうやらお殿様はご機嫌ななめのようだ。


促すよう隣をとんとんと手の平で叩けば政宗くんは素直にそれに従った。

普段は国を治め、民を背負う者として振る舞っている彼も私の前では気を張る必要がないと判断したのか、年相応の顔を見せてくれたりするのでお姉さんは嬉しい限りなのだ。


「誰かにくれる、って?」


それ、と顎をしゃくって示され、ああと頷いた。


「ものもらいだよ」

「やったんじゃなくてもらったのかよ」


なんだ、と笑う政宗くんはやっぱり一国一城の主ではなく普通の男の子だ。


「久しぶりに出来たから何だか新鮮で」


誰だって腫れた眼など見られたくはない。特に顔の整った相手ならば尚更で。

そろりそろりと落ちてきた目蓋を隠すようにそっと右手をあてがう。何事もなかったようにへらりと笑えば、ずい、と前髪を上げられた。


「見せてみろ」

「え、やだよ」


む、と顔を顰められても嫌なものは嫌だ。じりじりと下がった分だけ距離を詰められる。

いつの間にか政宗くんは私に乗り掛かる態勢になっており、端から見れば睦事の直前のようだが当事者二人はそんな事を微塵も考えてはいない。

見るか見られるか、ただそれだけだ。

しかし背後に感じる壁の存在はさすがにどうにも出来ない。勝敗の行方を早々に理解して白旗を上げようとすれば、それより一寸早く彼の手が退いた。

離れた手はそのまま自身の後頭部に伸び、常に彼の右目を守っていた眼帯がはらりと落ちる。

予想外の行動に呆気に取られている隙に、見せまいと固くなに右目を覆っていた右手がゆっくりと払われ、何時もとは違う隻眼で見つめられる。

あまり長くない前髪を左手で上げ、何かを確認したのか小さく頷き、私の腫れた右目にそっと宛がった。


「よし」

「これ…」


ぼんやりおぼろ気だった世界は完全な闇で覆われる。

そろそろと右目に触れれば冷たく堅い感触が返ってきた。

もう一度確認するように彼を見れば優しく、でも何処か哀しげな笑みを携え、片膝立てて座り直し眩しそうに空を見上げた。


「治ったらまた返してくれりゃーいい」


それまでは守っててやるよと告げた横顔が酷く愛おしく感じられた。



あなたと同じ世界に身を置いた




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