「おい、セドル」
「…」
「おいっつってんだろが!!」
「あだっ」
いきなりの衝撃で頭が揺れて、一部がじくじくと痛む。このやろ、殴りやがったなヤドカリ萌えが。危うく手に持ったカツサンドを落とすところだったじゃねーか。
「何すんだよ!」
「テメーがいくら呼んでも反応しなかったんだろが!!」
「あ…?」
「ったく、何ぼーっとしてんだよ」
「してねーよバ〜カ!なぁユー」
「セドル、自分が持ってるパン見なよ」
ユーから返事の代わりに意味が分からないことを言われ、とりあえず言う通りに見てみる。…うん、フツーのパンだな。どっからどーみてもカツサンドだ。購買でさっき買ったやつ。透明な包みの中にはレタスやカツが挟まった柔らかいパンが、包み?あれ?
「さっきからそれ、包みも外さずに持ってたよ。食べないの?」
「…」
「ほら見ろ」
「るっせーよこのヤドカリ萌え!」
「ああ!?テメーがうるせーんだよ目玉フェチ!」
「二人とも煩い。ボクはまだ食べてるんだから、落ち着いて」
にこり。明らかに張り付いた笑みを浮かべたユーに恐怖を感じて、仕方なく、仕方なーく大人しく身を引く。ボギーも同様だ。ユーは怒らせたら後が怖いって知ってるからな…。
「で、どうしたんだい?」
「ん?」
「いや、何か考え事でもあるのかと思ってさ」
考え事。それを聞いて思い浮かぶのは一つだけだ。購買で見たあの、知らねー女子の笑顔。
「…購買で、女子見た」
「は?目玉が好みだったのかよ」
「いや、目玉は見てない」
「じゃー体型」
「それも知らね。すれ違った時にちらっと見ただけだし」
「何だそりゃ」
オイラだって分かんねーよ。本当に一瞬だったし、見たの。なのにあの笑った顔が忘れられないっつーか、頭から離れないんだよなー…何でだろ?知り合いにでも似てるとか?
「…セドル、その人のこと嫌い?」
「んな訳ねーじゃん」
「何で知らねー奴なのに断言してんだよ」
「ん?あ、そっか。いやでも嫌いじゃねーって本当」
「それ、恋じゃない?」
は ?
こい、ってあの恋?
じゃー、オイラはあいつの事が好きってこと?顔しか、笑った顔しか見たことがない女が?あの顔を思い出す。心臓がぎゅっと縮んだ気がする。何か苦しい。でも嫌じゃない。むしろ何か、いい。
そうか、これは恋なのか。
その結論が、パズルのラスト1ピースが当てはまったようにしっくりきた。
「それだっ!!」
思わず教室内で叫んでしまった。
二時限目は自覚