トミーロッドという先輩は悪い噂しか聞かない人だった。
サボり、暴力沙汰、カツアゲ、パシリ、バイクでのスピード違反、お酒、不純異性交遊、警察沙汰その他諸々の迷惑行為。特に顔は整っていたため、女遊びが酷かった。女を手駒にして、文字通り遊んでいたらしい。貢がせたり無茶な命令したり他人に売ったり捨てたり。噂では自殺した子もいると聞いたが、実際はどうなんだろうか。
でもそんな過去がある先輩も、今では普通の恋愛をしているようだ。
この前中庭で見た先輩は、人を小馬鹿にするわけでも見下すわけでもない、自然の笑みを浮かべて楽しそうにして彼女と喋っていた。
根本的な中身は変わっていない。未だにトミーロッドは後輩をパシリにしているし、先生達との衝突もある。でも、女遊びはさっぱりとなくなった。昼食を食べるのも登下校もデートも戯れも、全て彼女とするようになったらしい。彼は本当に彼女を愛しているんだろう。
そう、愛せるんだ。




昼休み、財布の入った手提げカバンを持って、メロンパンを買いに行こうと席を立つ。と、廊下に見知らぬ男子が二人いた。二人とも、私の姿を確認すると廊下を塞ぐように私の目の前に立った。


「お前、ななしだよな?」
「……まあ、はい」
「ちょっと話があるんだけど、いいかな」


疑問形ではないな。有無を言わさない威圧感を感じた。成程、これが不良という奴かと少し関心していたら、目の前の二人の視線が私の背後に向けられる。どうしたと振り向けば、トリコとサニーが丁度教室から出てきたところだったらしい。トリコもサニーも、明らかに敵意を持った目で不良二人を睨んでいた。


「…何してんだお前等」
「関係ねぇだろ」
「お前等のことだ、どーせロクな事じゃネだろ」
「セドルの事について話があるだけだよ」


セドル。その名前を聞いて、自然とカバンを持つ手に力が入った。


「ほら見ろ、ロクな事じゃねー」
「ああ?」
「貴方達にはそうだろうけど、生憎私達には重要なことなんだ」
「ななし、お前さっさと購買行って来い。んでリンの所で飯食え」
「勝手な事ぬかしてんじゃねーぞテメエ!!」
「うるせっつーの!」
「あの馬鹿、あれでも本気なんだよ!だからせめて返事くらいはしてやれ!」
「聞かなくても分かってんだろーが!」


返事。そうか、私はまだしていなかったっけ。


「…セドルって人、何処にいるの?」
「あ!?おいお前、何言って」
「中庭に待たせてるよ」
「あざっす美人さん!!」


四人の間を通り抜けて、階段を急いで降りていく。
まずは購買に行かなくては。






中庭には、確かに昨日の人が立っていた。近寄って見るとびくり、と肩を揺らしてぎこちない動作で此方を向いた。視線が私を見たかと思えば右を向き、左を向き、下を向き、上を向き。そわそわしているなぁ、と少し和んだ。


「えーと…セドル、で合ってる?」
「っ、」


こくこくと必死に首を縦に振っていて、思わず噴き出した。


「な、何で笑うんだよっ!」
「いや、だって子供みたいで…」
「子供じゃねーし!」


いやまあ、子供ではないけどね。
余裕ぶってはいるけれど、私もぶっちゃけ彼同様に緊張している。声が震えないように、お腹に力を入れる。


「返事をしに来ました」
「……」
「まずは友達からでお願いします」
「へ?」


ぽかん、そんな効果音が聞こえてきそうな表情だった。


「…と、友達?」
「私、セドルの事全然知らないからさ、友達になろうよ」
「…いいの?」
「むしろ何で?」
「いや、オイラこんなんだし」


こんなん、とは。不良ってことででいいんだろうか。どうやら引け目を感じているようだ。
一体どこが不良なんだろうか。少なくとも今私の目の前にいるのは、只の恋する男子生徒だ。


「知ってる。でも、不良だからってセドルが悪いばかりの奴だって限らないし。それとも私をパシリにする気?」
「そんなんじゃねーよ!」
「じゃあ、いいんじゃないかな」
「…ん、よろしくな。ななし」


照れくさそうに笑うセドルを見て、つられてこちらも笑った。
多分、私も彼を好きになるんだろう。
それが友情なのか恋愛なのかは分からないけど。


そんじゃ友達になったし。


「メロンパン食べない?」


今度は私が彼にあげる番だと、さっき購買で買ったメロンパンを差し出した。


放課後はこれから

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